製造現場をプログラミングで改善する
タカノ株式会社 平澤 俊樹 氏

紙で管理していた業務を自分で作ったシステムに切り替え、周りを巻き込みながら徐々に内部の効率化を図っている姿や、巻き込み力の大切さなどについて聞いてきました。
聞き手は、プロトタイピング専門スクール「プロトアウトスタジオ」の校長である菅原のびすけさんが務めます(以下敬称略)。
工場設備の管理システムを自作する
(菅原)
今日は、私が主催している「プロトアウトスタジオ」の卒業生である平沢さんにお越しいただきました。平沢さんは、製造業の現場で働いていらっしゃいます。工場現場でのものづくりに関するお話もお聞きできればと思います。まず自己紹介をお願いします。
(平沢)
平澤俊樹と言います。長野県にある工場で生産技術職として働いています。工場では椅子を製造しています。私は、設備の電気部分を担当しています。
(菅原)
プログラミングをするようになったきっかけは?
(平沢)
以前からプログラミングに興味がありました。とは言っても、仕事で使うのはラダー図(PLCで使用する制御プログラム)と言って、ハシゴのような見た目のプログラムを書く程度でした。
個人的にJavaScriptなどのプログラム言語に興味があったので、本を買って独学したり、インターネットのスクールにも入ってみたりしたんですけど、成長している感覚がまるでありませんでした。
「これではダメだ」と思って、会社の公募でプロトアウトスタジオがあり、応募させていただきました。
(菅原)
プログラムに興味を持ったのはいつ頃ですか?
(平沢)
「Raspberry Pi 2(最低限の部品を1枚の回路基盤に搭載したコンピュータ機器)」が出始めた頃でした。その時期に、インターネット上で頻繁に見かけるようになったので、興味を持ちました。色々な記事を見て、「こんなことができるなんてすごい!」と思い、自分でも試したのですが、うまくいかないことの方が多かったですね。
(菅原)
2015年頃に「Raspberry Pi 2」が製造業でも使われているようになって、少しずつ事例が出てきましたよね。そういった事例の記事を見て、「自分でもやってみたいな」と思ったということですか。ほとんどの人は自分ごとにしないと思いますが、自分でやってみようと思ったところがすごいと思います。
プロトアウトスタジオを卒業してからは、どのようなものを製作していますか?
(平沢)
卒業後は、これまで持っていた固定観念がなくなり、より自由なものづくりができるようになりました。
卒業後に最初に作ったのは、工場設備の保全管理システムです。
Node-RED(ハードウェア・デバイス、API、Webサービスなどをつなぐためのオープンソース・ソフトウェア)を活用して、会社で使える保全管理システムを作りました。私の業務には、自分たちが作った機械の保全管理があります。機械が故障した時には、駆けつけて直すわけですが、その業務が属人化する傾向にありました。
「この設備の修理の担当は○○さん」というように、その人でなければ直せないようになっていました。そうなってしまうと、業務がその人ばかりに偏ってしまいます。その問題を解決したいと思っていました。
属人化しないように保全履歴を紙に記入するようにしていたのですが、記入しない人もいて、管理が徹底されていませんでした。そこで、Node-REDを使って、機械全部にQRコードを貼りました。QRコードをスマートフォンで読み込むと、Webのデータベースにつながり、その機械の修理履歴を確認したり、入力したりすることができるようにしました。いつどんな故障が起きて、その時の対処法はどのようにすれば良いかをデータベース上に保存できるようになっています。
このシステムは、社内のwifiにつながっているデバイスは全てアクセスできるようになっています。また、プログラムのHTMLやJavaScriptなどは、全てNode-RED上に完結させることで、横展開しやすいようにしました。別の事業所でも使えるようにしています。
AGV(無人搬送機)の内製化にも挑戦
(菅原)
非常に素晴らしい取り組みだと思いますが、紙から電子媒体に変更する時に周りの人から抵抗はありませんでしたか?
(平沢)
抵抗はなかったですね。逆に「このシステムを私の部署でも使っていいですか?」と言ってくれる人はいました。
残念ながら、紙で管理していた時はうまく活用されていなかったので、反応は非常によかったです。紙とは違い、このシステムでは、写真データも保存することができます。PDF上に写真を貼り付けることができますので、「この部分が故障しているんだな」とすぐに判断することができます。
また、どの機械の故障が多くて、誰が修理しているのが多いのかを取得して、グラフ化して表示する機能もあります。グラフをウェブページに乗せて、簡単な分析ができるようになっています。
(菅原)
プログラム開発は、業務時間におこなったのですか?
(平沢)
自宅で開発をしていました。完全に独りよがりだったのですが、「世の中で使えるのではないか」と思い、作っていました。製作中に、上司に「個人的にこのようなものを作っている」と話をしたら、「社内でも使ってみようか」ということになりました。
(菅原)
どれくらいの人がこのシステムを使っているのですか?
(平沢)
現在は7名で使っています。みんなが情報を入力してくれていて、共有できる情報が増えている状態です。現場の人も見ることはできるので、使おうと思えば50人が利用できます。
今はみんなが使ってくれていますが、最初の1ヶ月は2人しか使っていませんでした。協力してくれそうな同僚に協力してもらいました。徐々にアピールしていったところ、「ウチの部署でも使おうかな」と利用者が徐々に増えていきました。こういう周りの巻き込み方もプロトアウトスタジオで学んだことです。
(菅原)
プロトアウトの精神が浸透していて、とても嬉しいです。他の事業所にも広がりそうですか?
(平沢)
そうですね。今、「ものづくり革新プロジェクト」という全社のプロジェクトに参加していて、そこで先月デモンストレーションして、紹介したところです。
(菅原)
紙文化だったものがデジタルになったのが非常に面白いと思います。紙ではある必要はなかったわけですね。
他には、どのようなプログラムを作っていますか?
(平沢)
会社の業務で、AGV(無人搬送機)を作っています。プロトアウトスタジオの卒業制作でも作っていたのですが、その時は磁気テープで誘導させる方式を使わないで作れないか取り組んでいました。自宅でも作っていたのですが、なかなかうまくいきませんでした。
非常に難しいため、今は、磁気テープではなく、普通の色のついたテープを読んで走る無人搬送機を作っています。いわゆるライン・トレースですね。それを「Raspberry Pi 2」と「openCV(画像処理をする際に必要になる機能が用意されているライブラリ)」というプログラムを使って、モーターを動かしているところです。
(菅原)
すごくしっかりとした製作をされていますね。時間工数や実物が必要になるので、コストがかかると思うのですが、会社が負担してくれているのですか?
(平沢)
会社に作っているものは、全て負担してもらっています。
(菅原)
会社も理解してくれているわけですね。
(平沢)
そういう社風だったのが大きいですね。「チャレンジしても良い」という社風があったからだと思います。
AGVは購入すると非常に高価です。本体だけでも200万円ぐらいします。ですので、工場では毎年1台ずつ導入しているのですが、自分たちで作れるようになれば、20万円かからずに作ることができるので、何台も増やすことが可能になります。自分たちで作れるのも強みになります。それで今、業務としてチャレンジさせてもらっています。業務の一環としてやっていますが、作るのはとても好きなので、家に帰っても、子供が寝た後にずっとプログラミングしています。
現場をどうやって巻き込むか?
(平沢)
会社内でもプログラミングしていることが知られてきたため、会社の人からいろいろなことを聞かれることが多くなりました。プロトアウトスタジオに通っていたことを知っているので、「こういうのはどうするの?」と聞かれることが多くなりました。
(菅原)
頼られる存在になったわけですね。私の勝手なイメージでは、製造業の現場では、プログラミングに対してそれほど理解が高くないと思っているのですが、理解が進んでいる感じですね。
(平沢)
そうですね。興味を持ってくれる人が増えてきている気がします。プログラミングに挑戦しようとする人が、少しずつ増えてきている印象はあります。私の後輩にもプログラミングを勉強し始めた人がいます。
彼には、「プログラムを勉強するよりも、実際に何かを作った方がいいよ」とアドバイスしています。私自身の経験から言うと、本を読んだりして勉強するよりも、実際に何かを作ってみて、試行錯誤した方がスキルは向上すると思っています。
(菅原)
話を聞いていると、すごく順調だと思うのですが、今の課題はなんですか?
(平沢)
IoTやDXを進めていますが、利用する側がそのシステムに納得していなくて、利用されていないことがあることですね。会社として「見える化」を進めているんですが、「見える化によって何が変わったのか?」という疑問を持たれる場合があります。活用されていない様子を見て、もどかしく感じることもあります。
(菅原)
DXを進めようとした時に、障害を感じるということですか?
(平沢)
そうですね。「本当に現場の人たちに必要なのかな」と疑問に思うことがあります。まだまだ現場のことを理解できていないのではないかと感じますね。
ですので、できるだけ現場の人とコミュニケーションをとって、いわゆる要件定義をして、お互い納得する形で進めていこうとしています。そうしないと、使ってもらえないものがどんどん増えていってしまうだけになってしまいます。
(菅原)
現場との接点を確認するのは大事ですよね。
(平沢)
製作者が良いものだと思っても、使ってもらえないと意味がないですからね。多くの人を巻き込むことを上手にしないと難しいかなと思います。現場の課題を読み取って、巻き込まないと、どうしても「やらされている感」が出てしまいます。そうならないようにしないといけませんね。
加えて、誰が音頭をとるかも大事だと思います。誰が方向性を示して、言うかはすごく大事ですね。そのあたりの根回しが重要になってきます。
(菅原)
同じように挑戦している人に向けて、メッセージをお願いします。
(平沢)
私は、壁にぶつかった時はできるまで繰り返すようにしています。原因を考えて対策をすれば、必ず達成できるとプロトアウトスタジオで学ばせてもらいました。それを教訓にしています。
(菅原)
「できるまで繰り返す」、私も改めて学ばせてもらいました。ありがとうございました。
インタビュイー
- 平澤 俊樹氏
- タカノ株式会社ファニチャー部門
製造部生産技術課
前職では金属加工を行う会社で生産技術職で生産設備の設計や改良に従事、その後タカノに入社して生産ラインの合理化における電気設計(ハード・ソフト)、工場内設備の保守管理、電気工事。IOT化推進における、IOTデバイスを使用しての設備からのデータ送信、見える化に従事
聞き手
- 菅原 のびすけ氏
- プロトタイピング専門スクール「プロトアウトスタジオ」校長・プロデューサー。
1989年生まれ。岩手県立大学在籍時にITベンチャー企業の役員を務める。 同大学院を卒業後、株式会社LIGにWebエンジニアとして入社し、Web制作に携わる。
2016年7月よりdotstudio株式会社を立ち上げ、IoT・モノづくり領域を中心とした研修や教育業に携わっている。2019年4月にプロトタイピング専門スクール「プロトアウトスタジオ」を立ち上げる。
2018年4月よりデジタルハリウッド大学大学院の非常勤講師も務めている。
日本最大規模のIoTコミュニティであるIoTLTの主催、Microsoft MVP Visual Studio and Development Technologies (Node.js)、世界で22名の第1期LINE API Expertsの一人。
各種ハッカソン運営や、審査員など多数
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