コニカミノルタジャパン 矢部 章一 氏
「作業じかんを減らし創造じかんと自分じかんへ」
コニカミノルタジャパン株式会社 経営企画本部 データサイエンス推進室 室長 矢部 章一さんに、独自の働き方改革である「いいじかん設計」について伺いました。インタビュアーは日本能率協会、小関俊洋です。(以下敬称略)
「作業じかん」を減らし「創造じかん」と「自分じかん」へ
(小関)御社が進められている「いいじかん設計」がどのようなものか教えていただけますか?
(矢部)2013年から、弊社は「いいじかん設計」に取り組んできました。働く時間を少なくし、社員に有益な「いいじかん」を増やすことを目的としています。
「いいじかん設計」では、働く人の時間を3つに分けています。コツコツ仕事をこなす「作業じかん」、アイデアを生み出す「創造じかん」、休み・育み・学び・視野をひろげる「自分じかん」の3つです。「いいじかん設計」では、「作業じかん」を合理的に削減して、その削減した時間を原資として「創造じかん」と「自分じかん」にあてます。
プライベートな「自分じかん」が確保されず、個人の生活が充実していなければ、良い仕事はできません。また事業の成長にはアイデアを生み出す「創造じかん」も大切です。
(小関)なぜ「いいじかん設計」を進めているのでしょうか?
(矢部)政府が働き方改革を進めていますが、政府が取り組む前からコニカミノルタジャパンでは働き方を変える取り組みをしていました。その時は「改革」ではなく、「変革」という言葉を使っていましたね。
労働力減少が深刻な社会問題として叫ばれていますが、生産性を上げることで会社も社員も豊かになるのではないか。そのような考えが元になって「いいじかん設計」が生まれました。
AI・ビッグデータを活用して生産性を上げる
(小関)矢部さんの所属するデータサイエンス推進室の役割は?
(矢部)私が所属しているデータサイエンス推進室では「作業じかん」の短縮に取り組んでいます。
会社には営業や保守サービスなどの職種毎にいろいろなKPIがあります。そのKPIを元にして、AI等を使いながら、合理的に生産性を上げるためのモデルを作り、道しるべとなるような指標を社員に提示しています。「作業じかん」を少なくし、「創造じかん」を広げ、社員のクリエイティブな創造性を上げていくための支援をおこなっています。
(小関)具体的にはどのようなことなのでしょうか?
(矢部)営業や保守サービスの活動それぞれについて、確率論を当てはめました。どのように営業訪問するべきか、保守サービスはどれくらいの頻度でお客様のところに訪問するべきなのか、そういったことについてアルゴリズムを確立して、どのように業務を進めればいいかを具体的に示しています。
詳細な内容については、2019年1月におこなわれる「AI・ビッグデータ活用フォーラム」でお話しできるかと思います。フォーラムでは、弊社社長である原口も登壇する予定です。私がお話しする部分は「データサイエンスを活用したアルゴリズムによる支援」になります。
(小関)どのようなデータを活用されているのでしょうか?
(矢部)弊社の商品である複合機は、売って終わりというものではありません。保守や買い替えを通じて、お客様と末長くおつきあいすることになります。商品を提案して、ご購入いただくのは営業の仕事ですが、それ以外にも保守サービスなどお客様とコミュニケーションが必要になります。そういった営業やアフターサービスに関するデータになります。
(小関)AIやデータによって、効率的な働き方を探っているわけですね。
(矢部)私の部署ではモデルを提供しているわけですが、社内にはテレワークの環境を整備しているチームもありますし、「創造じかん」は社員の創造力を高める時間ですので、その時間の質を上げるための教育に関する専門チームもあります。「自分じかん」となりますと、これは人事部の管轄になります。いろいろな部署が目的を持っています。全社を挙げた取り組みと言えると思います。
(小関)現時点での成果はいかがでしょうか?
(矢部)これも詳しくは1月のフォーラムで発表できればと考えています。詳しくは言えませんが、かなり効果が出ていると思います。
データサイエンスの場合、フィードバックをもらい、成果を判断するわけですが、現時点で収集しているフィードバックは想定以上ですので、とてもいいと思います。
実務者に有益な講演にしたい
(小関)実際の営業マンやサービススタッフの意見も参考にしているのでしょうか?
(矢部)かなり参考と言うレベルではなく、一緒にタスクフォースという特別チームにデータサイエンティストと営業や保守などのビジネスサイドが参加してこれまで、経験と勘でおこなっていた部分を一緒にモデル化しています。
このタスクフォースにより後戻り工数が少なく、様々なモデルができています。
私たちの作ったモデルは進化させていて、それぞれの社員に合わせたものを提示することができます。全員に同じような指示を出すわけではなくて、経験が浅い新入社員には、その社員に見合った指示を出します。
例えば、営業のKGIやKPIで言えば、訪問件数があります。100件の訪問で1件の受注だったものが、10件の訪問で1件の受注にすることができれば、時間が空き、「作業じかん」の短縮になります。生産性を上げるというのはそういうことになります。今ある行動を変えていくということですね。
もちろん、あくまでモデルですので、それがビジネスサイドでの運用伴わないと効果がでない場合もあります。よって、そのモデルの活用法を営業マンが試行錯誤しながら、改良もしています。営業の例でお話をしましたが、保守サービスの業務はさらに効果が出ています。トータルで考えれば、とても大きな効果が出ていると思います。
(小関)1月のフォーラムでは、さらに詳しいお話をいただけるということですね。
(矢部)そうですね。最新の状況を踏まえたお話ができれば嬉しいと思いますが皆さんが興味あるのは、効果のでる、プロジェクト運営やテーマ選定法、モデルの作成法等中心にしたノウハウ的な講演になるかと思います。
既にAIやビッグデータの活用事例そのものはたくさんあって、インターネットで探せば見つけることができますが、実務者が本当に知りたい、テーマの見つけ方やお金の算出の仕方、チームの組み方など、現実的な話の方が参考になると思います。AIやビッグデータに興味・関心を持っている方にご参加いただければと思います。