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#2 アムンセンとスコットと不確実性 ー 「不確実性」に強いチーム

「本コラムは昨年12/18に開催され好評を博したJMA GARAGE セミナー「【グローバルM&Aを考える視点】アムンセンとスコットから”不確実な時代のビジネス”を学ぶ」のエッセンスをわかりやすく解説したコラムです。5回に分けてお届けいたします。

別に驚くことではないが、現代の私たちの生活は平均化・画一化されてしまった。酸っぱいリンゴも曲がったキューリも食べる機会がない。どこの都市に行っても新幹線の駅前に広がるのは似たような光景だ。子供たちの遊びから、川で泳いだり遊び道具を作ったり魚を捕ることがなくなった。計算可能性・予測可能性・制御というマクドナルド化された世界が隅々まで広がっている。五感を研ぎ澄まし、野生の生命力を磨く機会は失せ、ミスを恐れ、正解を求め、自信を失ってしまっているように感じる。小さな電子機器の中に閉じ込められた社会だけでは、息苦しいではないか。Go wildには夢中になるという意味もある。

環境が安定しているならムダを排し生産性を追求することが勝利につながる。だが環境変化には脆い。不確実性に強いシステムは、不測の事態や外れ値を吸収できなければならない。ビジネスになぞらえるなら、スコットは大企業の既存事業のやり方、アムンセン隊は戦略投資プロジェクトや新規事業もしくはスタートアップのやり方ということになる。

機能しているチーム、優秀なチームとは?

「機能不全の組織」には共通した特徴がある。①結果を出せない、②パフォーマンスが悪い、③言い訳や責任逃れをする、④真摯に取り組まない、⑤表面的には調和している、⑥各自が自分の殻に閉じこもって本音を言わない。⑤と⑥は多くの日本企業にあてはまる欠点だ。メンバーは互いの弱みを隠して見せようとせず、腹を割って激しく意見を戦わせない。これでは表面的に繕われた頼りない結びつきしか持てない。本心からその決定を支持し、責任感をもって行動しないし、チームのためにならない言動を咎めるのに躊躇するようになる。

「不確実性」に向きあうプロジェクトは、通常より激しく揺さぶられる。空中分解させないための工夫が必要だ。チームには「コンセンサス」ではなく「最適解」を追求させ、「言っていること」ではなく「やっていること」でその人を理解しなければならない。またパフォーマンスに優れたチームは能力で決まると思われている。確かに半分はそうだ。だが残りの半分はメンバーの性格類型によって決まるのだ。協調性・オープン性・誠実性は皆が持つべきだが、外向性やストレス耐性はバラついていた方がいい。内向的な人は外部の刺激に対してより高反応を示し(赤ちゃんのとき音楽やガラガラに強く反応するのは内向性の特徴)、複雑な問題を深く考えるのを好み、創造性に富むことが多い。また女性が加わるとパフォーマンスがあがることもわかっている。

チームにゴールを与えリーダーシップを発揮する

二隊の対比を図表2にまとめてみた。あくまでも「不確実性」が支配する「未知の環境」における比較である。周知の安定的環境ならむしろスコット隊にアドバンテージがあるだろう(かつてシャクルトンの開発した走路をなぞったように)。だが、それはもはや探検ではない。アムンセンは参戦しないだろう。つまり、環境とリーダーシップスタイルとは、適合問題として考えるべきだ。

スコットは基本的には紳士(南極点で先を越されたことを知ったがアムンセンから国王宛の手紙を持ち帰って届けようとした)で、自分自身のプライドに満ちた直観、軍人らしい精神論を重視したスタイルだ。日常オペレーションでは優れており(でなければ白羽の矢は立てられない)が、感情を爆発させることも多く(荒天を呪う)、たまたま気が変わる(装備もないのに南極点に向かう人数を増やした)こともあった。 

戦略はヒューリスティックなものだと先回のコラムで書いた。経験が重要というのは、いきなり犬ぞりが必要になっても、習熟していなければ使えない。スキーでも獣衣の装着でも同じだ。タイタニック号が沈没しかけてはじめて設計ミスに気付き、救命ボートの数が足りないことが分かっても、もはや救いがない。アムンセンは医学部の勉強を放棄して北極に向かう船の水夫となり、エスキモーと共同生活し、多くの生きた知識を体得した。こうした経験は、装備・補助器具・衣類やあらゆる準備作業に生かされた。隊員が一種の拘禁反応で士気が落ちるのを知っていて、3000冊の本、蓄音機+大量のレコード、楽器などを持ち込んだのもその一例だろう。

役職は上位から与えられるが、リーダーが誰かはメンバーが決めるものだ。フラム号は北極点を目指して出航したのに、南極点に目標を変えると告げた時には隊員の士気を下げただろう(一番びっくりしたのは南極で期せずして会ったスコットだろう)が、すぐにアムンセンに従う声が支配した。リーダーシップには知性・勤勉・誠実・グリット(粘り強さや諦めない胆力)の4つの資質が求められる。ここでいう知性とは記憶・再生の能力ではなく、問題を発見し、異なった情報を結びつけて解決する能力、自らを変えていく能力のことだ。

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Masatsugu Shibuno

代表取締役クロスパシフィック・インテリジェンス
岡山市生まれ。事業会社で約20年にわたって戦略投資にかかわり、M&A、PMI、米国事業再生、日米での新規事業開発、グローバル戦略マネジメントなどを担当。元リコー理事、リコーアメリカズホールディングス社長。 2018年2月、株式会社クロスパシフィック・インテリジェンスを日米4名で共同創業、代表取締役に就任。日本の事業会社に「Best-suited Growth」を届ける。 北米市場のグリーンフィールド調査、クロスボーダーM&AとPMIコンサルなどがメイン。 2019年10月に米国事務所を法人化(Cross Pacific Intelligence, Inc.)

(本コラムは教育・情報提供を目的としており、独立した専門的判断に置き換わるものではありません。開示される事実や意見は、読者個人に向けてのものであり、明示的に断りのない限り、クロスパシフィック・インテリジェンス社(当社)、およびサイト運営者である日本能率協会の意見または立場を示すものではありません。当社は、公開情報等に基いて本文章を作成しておりますが、その情報の内容、正確性または完全性について保証または承認せず、責任も負いません。本内容に関し、当社及びサイト運営者の許可なく複製したり転載することを禁じます。)

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