「Decade thinking -不確実な未来社会を生き抜くためのコンパス-」
【Decade thinking(3/5)】未来社会を捉えるタスクの実践:With/Afterコロナの未来考察の事例から(i.lab inc.)
このコラムを担当するイノベーション・ラボラトリ株式会社(以下i.lab)は東京大学i.schoolのディレクター陣によって設立されたイノベーション・ファームとして、これまで業界問わず大手企業をクライアントとして商品/サービス/事業のアイデア発想、アイデアを継続的に生み出すための仕組みづくり、研究開発戦略や重点事業開発分野の策定といった新規事業に特化したコンサルティングサービスを提供してきました。
そのような経験の中で、世界中にあるイノベーションに特化した研究機関・民間企業の方法論やi.school独自のメソッドを融合させながら、実際に新規事業企画に有用な「不確実な未来を捉えるためのメソッド」、「未来への対策の立て方」を形式知化してきています。
そこで、i.labが独自に発展させてきた「不確実な未来社会を捉えるためのメソッド」、「未来への対策の立て方」を「Decade thinking」という形でご紹介し、全5回の連載を通じて、読者の方々に、”これからの10年間を生き抜いていくためのコンパス”をご提供していきます。
第3回、第4回では、これまでご紹介してきた「未来社会を捉えるタスク」の実践例をご紹介します。第3回では、昨年社内プロジェクトとして実施された、「2025年の休み」をテーマにしたWith/Afterコロナの未来考察プロジェクトについてご紹介します。
プロジェクト・プロセスの要諦
今回のプロジェクトは、シナリオプランニングと、前回記事でご紹介したエクストリームユーザーインタビュー(以下、ExUインタビュー)の2つの手法を組み合わせて行いました。
シナリオプランニングは、あるテーマについて起こりうる複数パターンの未来を構造的に整理し、その対応策を考える一連の手法です。「コロナは収束するか、否か」や、「コロナによる生活様式や価値観の変化は不可逆的か、可逆的か」といった、不確実でインパクトの大きな問いを内包する今回のプロジェクトにおいては、複数パターンの未来を考察するシナリオプランニングが適した手法であると判断しました。
シナリオプランニングは起こりうる未来を構造的に整理するには理にかなった手法ですが、一方で、具体的なシナリオづくりは「小説を書く」ような作業であり、かなり高い創造的能力と人生経験が求められます。そこで、今回はシナリオづくりの段階でExUインタビューを行うことで、比較的容易で、かつリアリティーを感じられるシナリオづくりを目指しました。
※ExUインタビューは本来、未来考察に用いる方法論ではありませんが、今回は、具体的なシナリオを作る際の材料を得る目的で、この手法を応用してみました。言い換えると、未来小説を書く際に、登場人物のモデルとして、未来の普通の暮らしや価値観を先行的に体現する人に取材をするような意味合いで行いました。
シナリオプランニングの検討プロセス
まず、人々の「2025年の休み」に大きな影響を与えるマクロ因子(Driving Force、以下DF)を、i.labが普段からデータベース化している400弱の事例(前回ご紹介したメガトレンドも含まれます)から特定しました。さらに、それらのDFを確実性の観点で分類した結果、影響度と確実性が高いDF(メガトレンドDF)が6つ、影響度は高いが不確実性も高いDF(不確実DF)が2つとなりました(図1、図2参照)。
次に、プロジェクトメンバーによるワークショップを通じて、6つのメガトレンドDFを各シナリオの共通前提にしつつ、不確実DFの2軸によって4パターンに分かれる未来の構造が整理されました(図3参照)。
ExUインタビューから得た示唆をもとに具体的なシナリオを作る
シナリオプランニングは構造の整理とシナリオタイトルの検討までで一旦止め、以降はExUインタビューを行い、具体的なシナリオづくりを進めました。ここからはシナリオ1「仕事と家事、育児、プライベートが溶け込んだ暮らしを楽しむ」を例に挙げつつ、その検討プロセスをご紹介します。
まず、各シナリオで2−3名のインタビュー対象者を選定しました。選定の際には、シナリオのリアリティーを高めるため、シナリオタイトルや軸の条件に当てはまりそうな生活をしている対象者を選ぶことが重要です。一方で、条件にカチッとハマる人だけを選ぶのではなく、担当者の頭の中にある仮説を進化させ、シナリオの創造性を高めてくれる示唆を得られそうな人を選ぶことも、同時に重要になります。
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シナリオ1「仕事と家事、育児、プライベートが溶け込んだ暮らしを楽しむ」の対象者例(1):北海道に移住し、数年前からフルリモートでの働き方を実践しているビジネスパーソン
こちらの対象者は、Before コロナの段階からオンラインで仕事する生活を実践しており、シナリオ1の不確実DFの条件に当てはまりそうな人と言えます。インタビューでは、長年のフルリモート生活の中でどのように「休み」を作り出しているか、そしてどのような課題を感じているかを深掘りしていくことで、シナリオのリアリティを高めるための多くの示唆を得られました。 -
シナリオ1「仕事と家事、育児、プライベートが溶け込んだ暮らしを楽しむ」の対象者例(2):アウトドアをこよなく愛し、起業までしてしまったベンチャー社長
こちらの対象者は、一見シナリオタイトルや不確実DFの条件とは関連無さそうですが、コロナで人気が高まりつつあるアウトドアに対し人々が感じている価値などを質問してみると、コロナ禍の制約ある生活の中で、人々の関心が自然や丁寧な暮らしに移っていることや、リモートワークによって自分の住む身近な環境への興味関心が増していることなど、シナリオの創造性を高める多くの示唆を得られました。
インタビュー実施後、得られた示唆や担当者の個人的な経験・思考をもとに、4つの問いに答える形式でシナリオを作成しました。ここでは例として、シナリオ1の作成結果をご紹介します(図4参照)
未来のシナリオをもとに未来の価値・アイデアを考える
最後に、本プロジェクトはシナリオづくりから一歩踏み込み、それぞれのシナリオの世界観の中で有望と思われるアイデアの創出まで行いました。例えばシナリオ1では、「育てる」という行為を通じて「丁寧な暮らし」を感じられることや、退屈な在宅生活の中でも偶然の出会いや発見の機会(セレンディピティ)を得られることが新たな価値となると考え、「定期的に観葉植物が届き、自宅の変化を楽しめるサブスクボタニカル」というサービスアイデアを考えてみました。(図5参照)
「サブスクボタニカル」が大きなビジネスになるかはまた別の話になりますが、ここでの重要なポイントは、ミクロな視点を持って考察された未来のシナリオには、必ずそこで生活する人の特徴的な行動・価値観が描かれているため、未来の特徴的なニーズ・価値を捉えたアイデアをシナリオ起点で発想しやすいということです。
ここまで、マクロ視点のシナリオプランニングとミクロ視点のExUインタビューを活用した、未来社会を捉える実践事例についてご紹介させていただきました。未来社会を捉える考え方やタスクをプロジェクトで実践していく際のご参考になりましたら幸いです。第4回では別の事例をもとに、また違った角度から実践の方法についてご紹介させていただく予定です。
引き続き、お楽しみください。
(本プロジェクトの成果は弊社ブログ「Path to Innovation」にて公開中です。シナリオ2〜4の結果など、詳細が気になる方はぜひこちら(https://blog.ilab-inc.jp)のブログもご覧ください!)