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今だから知っておきたいデザイン思考
~デザイン手法から発想するイノベーション~|イベントレポート

1996年に米IDEO社に入社し、同サンフランシスコ事務所で広くプロダクトデザイン、戦略に携わってきたご経験を持つ石黒猛氏を講師としてお迎えして、特別講演会を開催しました。

当日は、石黒氏のキャリアを通したご経験をもとに【デザイン思考でイノベーションを生み出す】というテーマについて語って頂きました。

当日の模様から一部内容をレポートとしてお届けします。

 【イベント詳細はこちら】
 「今だから知っておきたいデザイン思考 ~デザイン手法から発想するイノベーション~」
 オンライン特別講演会
 https://jma-garage.jma.or.jp/200707event/

デザインシンキングの意義

デザイン思考の一般的な考え方は、人間を中心に置き、「現状のより深い理解(フィールド観察)」→「さらなる発想の創出(ブレーンストーミング)」→「素早い試作と検証(ラピッドタイピング)」を回していくというものです。本日はこの前段にある重要なことを皆さんにお伝えしようと思っています。

新しい価値を生むには、「発想の起点」「目的」「手段」という3つの要素が必要です。「発想の起点」は、新しい発想(価値)を作る人、「目的」はその発想(価値)が必要な(困っている)人に何かをしようと思った時の発想の起点、イノベーションの起点です。最後の「手段」は困っている人が望む価値を形にして提供することです。この順番が重要です。

人間は「目的」を本質とする性質があります。「目的」と「手段」を無理にひっくり返したところで本質は変えられません。

事例を1つ紹介します。1975年、世界初のデジタルカメラを開発したのはコダック社の研究者でした。研究者は面白いものを作りたい一心でプロトタイプを作り、上司に見せたところ、「これが普及したらフィルムが売れなくなるので社外秘にしてほしい」と言われたのです。目的と手段がひっくり返った瞬間でした。目的ではなく手段を重視した結果、2012年、コダック社は倒産しました(※1)。この事例からもわかるように臆病になってはいけないのです。人間の未来に常に希望を持たないと新しいものはつくれないし、キラキラしたものは生まれないというのが私の持論です。

デザイン思考の意義とは、「目的」と「手段」をしっかりと見据えながら、「目的」で発見したさまざまな要素から本質を見いだし、その目的を叶えるためのパッケージを曇りなき眼で創出することです。

デザイン思考と哲学の関係

デザイン思考でもっとも重要なのは哲学的動機です。

まず、「理解する」ことについて考えてみましょう。情報化社会の中では知りたいことを検索すれば、①情報を把握し、②情報を読み取ることができます。しかし、それだけでは事象について理解し、完全に使えるレベルで習得、あるいは自分の知恵として組み込まれたとは言えないでしょう。そのあとの③個人との関係でその情報を咀嚼し、④情報を時代的、地理的、文化的要因からその文脈を把握し、⑤情報を哲学との関係の中で自己に取り入れる。こうすることで完全な意味で理解したと言えるのではないでしょうか。デザイン思考の特長は、③~⑤の「美意識、哲学」領域の思考法を分析のプロセスに取り入れたことです。そのため、デザイン思考を通せば、物事を的確に理解できるようになります。

人は情報(現象)だけでは理解できず、理解するには必ず「意味」が必要です。情報と意味が組み合わされることによって、自分の中に取り入れることができます。これを称して哲学的な視点と言います。したがって、つながりや人との関係、目的といった「意味」を探すことがデザイン思考では重要です。

たとえば、おいしそうなクッキーが目の前に出されたら、見たり、匂いを嗅いだり、かじってみたり、体験情報の収集を始めますよね。心の奥底から無意識レベルで感動が生まれるような情報に出会えたとき、瞬時に哲学的動機が生まれます。観察することで哲学的動機の延長線上で情報がつながりながら広がり、哲学的動機の周りに知財情報や体験情報が構築されていくのです。

こうした経過をたどることによって、体験情報の延長情報として、見えていない未来像さえイメージできるようになるのです。未来をつくるには、核となる体感や経験、さまざまな人間ドラマが必要です。これらがうまくつながり、哲学が自分の中に発生することで、はじめて未来を作ることが許されるのです。この一連の流れこそが、私が考えるデザインシンキングです。

哲学情報は、体験情報とも知財情報ともくっつく接着剤の役割を担っています。そして、両方をつなぎ合わせて核が構成されます。中心軸である哲学情報がなければ、知財情報や体験情報をどんなに仕入れてもなんの役にも立ちません。

哲学的動機が起点になり、体験情報と知財情報で本質的に理解を深め、本質理解から未来(応用情報)が生み出せるのです。哲学動機を立て、ピュアな体験情報から正しい情報を得た上で知財情報を持って概念を深めていく。デザイン思考とは、このようなプロセスを経て、本当の意味で物事を理解できることなのだと私は考えています。

デザインシンキングについて

デザイン思考とは、難解で複雑な問題に対する新しい思考法です。全身を使い、他人の思考までも取り込みながら行う思考法でもあります。
デザインシンキングには、2つの重要な概念があります。1つは本質を意識する「本質思考」、もう1つは右脳を活用する「イメージ思考」です。

「本質思考」では、常に本質を意識し探すことが重要です。「本質」とは物事の本来の性質や姿、それなしには存在し得ない性質や要素です。本質は常に人との接点にあるため、人を注意深く見ていないと本質を見誤ってしまいます。たとえば、頭を掻く道具としてペンを使った場合、文字を書くという「本質」からは逸脱しています。本質、つまりモノの背後にある軸が「何なのか」を捉える本質探しを行ってみると、今までとは違った思考ができるようになるでしょう。

「イメージ思考」は右脳で思考することです。左脳は論理・思考・言語をつかさどり情報を仕入れる領域、右脳は知覚・感覚・創造をつかさどっています。2つの脳の性能には大きな違いがあり、左脳は1984年にIBM社が発売した16ビットのコンピュータと同じくらいの性能しかありません。一方、右脳は富岳(※2)レベルの性能を持っていると言われています。性能のよい右脳を使いたいところですが、厄介なことに右脳は言うことを聞いてくれません。その点、左脳は忠実に自分の考えるように動いてくれます。こうしたことを意識して、思考回路を作り変えていくのがデザイン思考の大きな命題でもあります。右脳と左脳を行ったり来たりする練習を日々行い、イメージ思考を深化させていきましょう。

(※1):倒産後、規模を縮小。2013年にニューヨーク証券取引所に再上場している。
(※2):理化学研究所が開発したスーパーコンピュータ。

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