【Global Trend – In and Out】
ESG経営と企業の価値づくりとは
昨今、JMA GARAGEの読者の方々も「ESG」という言葉をよく目にするようになってきたと思います。「ESG」とは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取ったもので、企業が持続可能な活動を行っていくために必要な3つの観点であり、投資家にとっても企業評価の重要なポイントになっています。
昨今の気候変動や自然災害など、生活者の不安感が増大している状況に加え、この2年間は新型コロナウイルスにより生活環境が大きく変化しました。このような環境にあって、企業や産業界のESGやSDGsに対する取り組みに対して年々生活者の注目は高まっています。
私が所長を務める企業広報戦略研究所では、このような社会環境の変化の中で、企業が社会から信頼されるにはどうすればよいのかについて、ESGの観点からリサーチを行っています。先日、「ESGレピュテーション調査から読み解く企業の価値づくり」というセミナーを開催し、調査結果について私から説明を行い、そして本領域における第一人者である一橋大学の伊藤邦雄先生(同大CFO教育研究センター長、名誉教授)に「サステナブル経営と企業価値」と題してESG経営のポイントについてご講演を賜りました。
伊藤先生からは、企業経営におけるESGの現在位置と展望、そして企業が今後ESGをいかに実践、活用していくべきかについて、大変示唆のあるお話をいただきました。特に、ROEとESGの相互浸透効果や、人的資本情報開示の重要性、さらに今後のESGや非財務情報・無形資産のコミュニケーションとしては「表現方法の競争が重要になる」というご指摘もありました。
なお、伊藤先生には、当研究所が提唱する「価値づくり」広報の重要性に共感いただき、研究所の近著『新・戦略思考の広報マネジメント』内においても、「統合思考」や「インパクト・コンシクエンス(帰結)」の思想が広報部門には必要であることなどを解説していただいております。
伊藤先生
一橋大学 名誉教授
ESGとレピュテーション(企業への評価・支持)
この数年、新型コロナウイルスの影響もあり、「社会的な企業価値」すなわち「ソーシャルバリュー」の重要性が急速に高まりました。さらに、これらを評価する基準として急速に定着してきたのが「ESG」です。「ESG」に関する報道は、この5年間で13倍※に増加しています。さらに、一般生活者のESG認知度も2019年には2割に満たなかったのが、わずか2年で3割を超えました※。「ESG」は今や、投資家や専門家だけでなく、個人投資家・一般生活者・就活生など幅広いステークホルダーにとっても関心事となっており、企業のブランド価値向上を考えた時に、「ESG」は避けては通れない重要なテーマになったと言っても過言ではありません。
注目が高まる一方で、開示指針やプロによる格付けは多数存在するものの、企業のESGに関する取り組みが、ステークホルダーからどのように評価されているかを測定する方法やフレームが見当たりませんでした。そこで、2021年6月、日本企業のESG関連開示状況を研究し企業広報戦略研究所の独自視点でモデルを開発いたしました。特に企業広報としてステークホルダーに伝えるべき項目に着目し、E・S・Gそれぞれ8つずつ合計24項目を設定。それが「ESGレピュテーション調査」(図1)です。
※いずれも企業広報戦略研究所調べ
ESGレピュテーション業界ランキング1位は飲料、2位は・・・
この調査では、20業界200社について1万人に調査しています。その結果、最もESGレピュテーションスコアが高かった業界は「飲料」でした(図2)。脱プラなどの生活者がメリットを感じやすい取り組みが生活者に印象強く伝わった結果だと考えられます。
しかし、環境負荷が高いと感じていた「鉄鋼・重機」業界が2位なのは意外な結果ではないでしょうか?そこで、「鉄鋼・重機」業界の上位企業の取り組みを見てみると、ESG説明会や地域住民との対話など、地道で誠実な取り組みを継続的に行っていることが分かりました。ホームページなどのオウンドメディアや、統合報告書でのディスクロージャーに加えて、企業の重要ステークホルダーに対する対話・エンゲージメントの姿勢が高い評価を得た要因ではないかと考えられます。日本の産業界は、地域住民の方々とこれまで真摯に向き合ってきたことが、このような結果につながったと考えられます。