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【Global Trend – In and Out】
ワシントンは今(前編)
オミクロン拡大直前に出張して感じたこと

12月の初旬に1週間ほど、会社の役員と共に米国・ワシントンD.C.に出張しました。コロナの感染拡大による度重なる渡航制限のため、2年ぶりの海外出張でしたが、日本の報道で見るアメリカと実際のビジネスや生活シーンには少し違いを感じました。これから日本からの海外出張も徐々に増えてくると思いますので、そのあたりの印象を2回に分けて書いていきたいと思います。

執筆者

許 光英

許 光英 
シニア・プロジェクト・マネージャー :
株式会社 電通PRコンサルティング

ワシントンにおけるビジネスシーン

まだオミクロンの感染拡大前でしたので、現在は状況が異なっているかもしれませんが、私たちが会った米国企業のビジネスパーソンからは「ワクチン接種ももうすぐ3回目のブースターショットを打つし、オミクロンも重症化しなさそうだし、コロナはインフルエンザと変わらないようになるんじゃないかな」という意見が多く聞かれました。CNNやFOX TVもコロナ関連ニュースは少なく、日本の報道との違いを感じました。

コロナ関連のニュースは限定的
コロナ関連のニュースは限定的

今はオフィスへの出社は週に2~3日程度、オンラインでのハイブリッド勤務という状況で、オフィス街がゴーストタウンになってしまった2020年とは異なるそうです。会えば握手も普通にやり、こぶしを合わせる「フィストバンプ」は、こちらがやらない限りはやっていませんでした。

ワシントンD.C.では、11月末に室内でのマスク着用義務が解除され、我々が滞在した時には、オフィスでのマスク着用率は2割程度でした(オミクロン拡大により、12月21日より1ヶ月強のマスク着用義務を再開)。シンクタンクとのラウンドテーブルは2時間を予定したため、マスク着用をお願いしましたが、短時間のミーティングでは、先方がマスクをしていない場合に、こちらがマスクをするかどうか迷いました。一般的に、相手の顔・表情が見えた方が安心する傾向が強いアメリカ人ですので、日本からの出張者としては、悩みどころです。「これはよかったな!」と思ったことは、ミーティング後に「一緒に写真を撮りましょう」と言ってマスクをはずして、(少しおおげさに)にっこりすると、先方もにっこりしていたことです。どこかのタイミングで顔を見せることは大事だと感じました。

直近でテキサスに取材旅行した日系メディアの記者の方から、「テキサスではノーマスクで、がっちり握手をしないと、相手が『オレを信用しないのか』という感じで不機嫌になって困った」というお話を聞きました。握手もノーマスクも、何事も前向きに考える米国の楽観的なところと思いたいですが、「コロナを怖がるのは恥だから、強く見せなければ」というマッチョな意識という気もしました。

人間関係の基本はフェース・ツー・フェースを痛感

今回、いくつかのシンクタンクやロビイング会社、メディアなどを訪問し、会議を行いました。共通していたのは、「こんな時期に訪問してくれて、どうもありがとう」という歓迎ぶりで、こちらとしても大変うれしく感じました。難しい時期に多少無理をしてでも何かをするということは、人の琴線に触れるのだなと改めて思った次第です。今回、意図してそれを狙ったわけではありませんが、結果として大変良いミーティングをすることができました。
会議については、この2年でZoom/Teamsのミーティングが中心となりましたが、オンラインでは、こちらの提案について、「まあ、考えておきますよ」だったのが、「面白いですね。積極的に、具体的に進めましょう」という反応に変わりました。実際に同じ空間でこちらの目を見て、しゃべって、熱を感じて、納得するところがあったのでしょう。やはり、人と人との付き合いは対面、フェース・ツー・フェースが重要なのだなと痛感しました。オンラインミーティングは、時と場所を選ばず大変便利ですが、相手を信用できるのか、信頼するに値する話なのかを判断する交渉については、やはりフェース・ツー・フェースが大事なことを再確認しました。

基本はやはりフェース・ツー・フェース
基本はやはりフェース・ツー・フェース

三井物産の安永竜夫会長は、日本経済新聞のインタビューで、「コロナ禍で広まったオンラインの仕事は、あくまでも相互の理解や共通の理解に支えられている。土台を築き上げるまでには、自分の考えを伝え、相手の言葉の行間を読みつつ、冷や汗をかきながらコミュニケーションを重ねる必要がある」とし、アフターコロナを見据え、最前線の「現地現物」で経験を積む重要性について語っています。安易にオンラインミーティングに頼ることなく、苦労してでも相手と会い、「目で勝負する」ことが、これからのアフターコロナの時代で再認識されると思います。

「行きたくても行けない!」日本の水際対策に不満のビジネスパーソン

今回、日本とビジネスを行っている人たちと会って、彼らが一番不満に感じていたことは、日本政府によるアメリカ(外国)からの渡航者に対する水際対策・隔離についてでした。外国人の入国が禁止されている場合は、そもそも来日できませんが、入国できる場合でも、日本に家がない出張者がホテルに2週間隔離されることは心理的・肉体的に苦痛が伴いますし、時間的にも無駄です。アメリカはすでに日本からの渡航については、ワクチン接種と陰性証明だけで入国できますので、せめて同じレベルにしてほしいという要望が聞かれました。「行きたくても行けないのは、お互いのビジネスにとって大きなダメージだ」という声に耳を傾けるべきだと思います。

また、次回の後編で書きますが、成田空港などに到着した際の、延々と続く検査は、アメリカ人にとっては無駄だと感じることでしょう。ゼロリスクを志向する日本人のメンタリティは、日本通のアメリカ人にとってはわかっていたとしても、いざ自分が渦中に入ることは嫌なのだろうなと思います。
昨年6月にニューヨークでの駐在を終えて帰国されたNHKの野口修司記者(現在、沖縄放送局放送部長)が、アメリカから帰国してからの長い長い帰途について、コラムで詳しく紹介していますので、ぜひご覧ください。

野口修司「NY~東京~沖縄 1万2千キロの大移動で見えたもの」

ワシントンの日本企業・駐在員は

現地の事情に詳しい日本人駐在員の方に話を伺うと、コロナの感染拡大によって、現在、日本からの駐在員やその家族の方たちは一時帰国をしているか、担当者が帰国後、後任がまだ着任していない企業が多いとのことでした。ピーク時には150社程度の日本企業がワシントンD.C.においてオフィスを構えていましたが、現在は70社程度だろうとのことです。オフィスはそのままなので、これからノーマルに戻るにつれて、徐々に人は戻ってくるだろうとのことでした。せっかく知り合った企業の後任の方が来ないので、意見交換ができないのがつらいということも聞きました。

仕事において困ったことは、例えば現地のシンクタンク主催の勉強会や、日本大使館主催のパーティーなどのイベントが軒並み中止されたため、情報収集、意見交換、新たな人脈づくりがやりづらくなったということです。ワシントンにオフィスを構える日本企業にとっては、米国政府の政策動向の把握や政策立案への関与が主たる目的ですから、情報収集や人に会えないということは、大きなマイナスとなります。
ワシントンは政治の中枢ということもあり、議員訪問は難しくなっていました。今は、議員会館への訪問については、議員との事前のアポイント、招待がある場合のみ、入館を許されるとのことです。日本と比較して、国会議員(上下院)の人数が少ない米国においては、議員へのコロナ感染を防ぐために、来客を制限することは重要なことなのでしょう。

上院議員会館への訪問は予約者のみ
上院議員会館への訪問は予約者のみ

駐在員の生活にとって困ったことは、強烈なインフレによる物価高騰とガソリン価格の高騰だそうです。ドル建てで給与をもらっている方にとっては、家計がダメージを受けるというよりは、生活面において心理的なストレスになるという話を聞きました。また、レストランが今もかなりクローズしており、オフィスそばのレストランでランチが食べられないという話も聞きました。クローズの理由としては、コロナ禍において従業員が転職したり、手厚い失業保険によって労働意欲が落ちてしまい、低賃金の仕事につくのを嫌がるため、店を閉めざるを得ないということです。ただし、高給のビジネスパーソンが行くレストランはおおむね満席で、コロナ前に戻りつつあるという話も聞きました。
面白いことに、私が宿泊したホテルでは、チェックインの際に「ハウスキーピング(室内の掃除やタオルの交換)は、希望する時だけ前の日に連絡をしてください」と言われました。ハウスキーピングを担当する従業員の確保に苦労しているそうです。私の場合は、5日程度の宿泊だったため、室内に人が立ち入ることでコロナウイルスが侵入することを防ぐためにハウスキーピングは断り、タオルだけまとめてもらいました。また、外食を避けるために、ホテルでもUber Eatsなどを利用する人が以前よりも増えていた気がします。

改めて感じたこと

前述のNHK野口記者は、「(コロナの)無限ループから抜け出す状況打破には、リスクテイクと展望、戦略、予見、それに推進力とスピードが必要と思う」と述べています。米国がすべて正しいわけではありませんが、すっかり「羮に懲りて膾を吹く」ようになってしまった日本社会において、「ゼロリスクを追い求める」ことだけでは、日本経済の回復は難しいと感じました。状況打破のためには、一人一人が過度に心配することなく、同調圧力に負けることなく、またメディアがあおり過ぎることなく、そして政治家がポピュリズムに走らずに、大局を見据えた決断をすることがこれから重要になるのだろうなということが、今回の米国出張で改めて感じたことかもしれません。

次回後編に続きます

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許 光英

シニア・プロジェクト・マネージャー 株式会社 電通PRコンサルティング
1991年富士ゼロックス株式会社入社。ビジネスコンサルティングとドキュメントソリューションサービスに従事。 1996年電通パブリックリレーションズ(現電通PRコンサルティング)入社。パブリックアフェアーズ、リスクマネジメント、デジタルコミュニケーションなどのプロジェクトを歴任。 近時は国際情勢分析、経営トップのコミュニケーション、メディア対応などを手がけている。慶應義塾大学文学部(社会学)、ペンシルバニア大学国際関係学部卒業。
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