【#30:CTO機能の再定義】~技術者こそ経営者を目指せ!~ イノベーションリーダーが知っておきたい30のチャート
日本能率協会の上席アドバイザーエグゼクティブフェローの五十嵐氏による本連載コラム。
連載最終回となる今回は、技術革新が非常に速いスピードで展開される今まさに重要な役割をもつCTOについて、その機能の再定義をお話しします。
技術革新が進みデジタル化が本格化する中で、今後の企業経営では、CTO(あるいはCDO)の役割と機能がとても大切になります。
「経営判断」するにあたって、技術革新のマクニチュードを見極め、新技術の出現が自社の事業に与える影響を考察する見識が、これまで以上に重要となるからです。
そして、それを踏まえ新事業を創造し、あるいは既存事業を変革(トランスフォーム)する必要があります。
スピード感を持ち経営の決定事項を取り組むには、自社の資源で全てをまかなうことは難しく非効率です。
したがって業界内や異業種、さらにはベンチャーやスタートアップとの共創(エコシステムの確立も含め)等を視野に入れ、行うことがポイントです。
これら一連の取り組みに対し、その中心的な役割を果たせるのは、技術のバリューチェーン全体を認識し、情報の技術革新にも見識をもつ CTO(Chief Technology Officer、最高技術責任者)に他なりません。
会計監査法人のグローバル企業調査で、日本企業のCEO(最高経営責任者)の多くが「抜本的な経営革新を率いていく自信が整っていない」さらに「技術革新のスピードに苦慮している」と考えていることが明らかにされました。
この結果はとても大きな衝撃でありますが、これはCTOがその役割を果たせず、CEOと一体となり経営を推進する状況ができていないことを示しているとも考えることができます。
CTOの役割を再定義すると、「経営トップの中心的な役割を果たしCEOと一体となり企業経営の正しく中心を担う」ことに尽きます。
さらにCTOの機能は、最終的にイノベーションの実現であり革新的な事業の創出を意味するとともに、既存事業変革に対して指針を与えることも含みます。
つまりCTOとはChief Technology Officerであるとともに、Chief Transformation Officer、すなわち技術的な視点から企業を変換する最高責任者とも言えるのではないでしょうか。
そのためには非連続成長を牽引する役割をも担っていると考えることができます。
CTOは既存事業を技術的な側面からフォローすることや未来技術や研究開発の視点だけに留まっていることは許されません。
Chart30:CTO機能の再定義
こちらの4象限図は、市場と技術(研究)を、現在から将来に向けた時間をパラメーターに表したものです。
そして各象限を担当する責任者(部門)を規定しました。
ポイントをあげたいと思います。
・現在の市場機会は事業部門/BU(ビジネスユニット、営業と開発)が考える
・将来の市場機会はコーポレートマーケティングが考える
・現在の技術の延長線上にない将来技術は コーポレート先行開発(R&D)が考える
・イノベーションの実現は、現在の技術の延長線上にない技術と、 将来の市場機会を見据え、新たな事業を創出することを指す
・CTOはイノベーションの実現のためには「現事業の進化」と「R&Dの進化」の壁を越えていく必要がある
CTOがその機能を発揮するところは 「“将来の技術”と“将来の市場機会”を見据えた象限」となります。
そして、“将来の技術”の中には、従来型の技術の他にデジタル技術が含まれていることも重要です。
最後に、「日本企業の成長の鍵は、CTOが握っている」といっても過言ではないことを記し、実際の企業経営の場で「CTOの役割と機能が発揮される」ことを念願し、連載コラムの筆を置きたいと思います。
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五十嵐 弘司
1980年に味の素(株)入社、バイオ精製工程のプロセス開発に従事。1998年からアメリカ味の素(株)アイオワ工場長、技術開発センター長を経て上席副社長。2009年、味の素(株)執行役員経営企画部長、その後、取締役常務執行役員、取締役専務執行役員に就任。
中期経営計画の策定、M&Aの実務実行など、味の素(株)で経営の中枢を担う。また、技術統括・情報統括として、イノベーションの実現、グローバル展開、ICT活用やデジタル化を推進した。
現在、一般社団法人日本能率協会上席アドバイザー エクゼクティブフェロー、公益社団法人企業情報化協会上席顧問 エクゼクティブアドバイザー等を歴任し、日本産業界の再成長にむけ取組み中。
「競争優位を実現する成長戦略と経営基盤」ほか、企業経営に関わる多数の講演実績がある。著書「技術者よ、経営トップを目指せ!」(2019年11月、日経BP)を出版。
近日公開予定のChart(各記事公開後にリンクが貼られます)
Chart24:イノベーションの機会
Chart25:イノベーション実現の取組み方①
Chart26:イノベーション実現の取組み方②
Chart27:IoTとデジタルビジネス
Chart28:デジタルビジネスの成熟度とGAFAのポジション
Chart29:競争優位を実現する日本企業の取組み方
Chart30:CTO機能の再定義(本コラム)