CTOの原点はやはり技術探求とワクワク感だった
【R&D事務局後記⑤】
日本能率協会が主催する『R&Dイノベーションリーダー交流フォーラム』事務局が開催後に感じたことを共有します。
2020年2月25日、忘れもしないこの前日あたりから、SNSの余波で世の中のマスクはもちろん、トイレットペーパーやBOXティッシュ、ともすればクッキングペーパーまでが店頭から消え去る事態が始まっていました。
時すでにコロナウィルス感染拡大のスタートラインに立っていたということです…。
参加者の何人かから当日参加を見合わせる連絡が入る中、今期プログラムのゲスト講師の大トリとして、日産自動車フェローの久村春芳さんをお迎えしました。
久村さんは長年にわたって同社の研究開発を牽引して来られ、現在は対外的な講演や指導にと各方面でのご活躍が目覚ましい方です。
今回の、講演テーマは「戦略と目利き ~来る未来に必要なコンピテンシーを高める~」でした。
久村さんは弊会のイベント等でこれまでも何度かご登壇いただくことがありましたが、頭の切れる方という印象で、歩幅やスピードが凡人とは違うタイプの方でもあります。
疾走感がスーツを着ているような方の講演に、受講メンバーが置いてけぼりにならないか、ひそかに心配していました。
終わってみるとアンケートには、
「刺激的で納得感があった」
「かなりの『切れ者』という印象」
「個性が圧倒的」
と、その存在感に打たれたとの感想が目につきました。
どんな人が発明や創造ができるのか?との問いに、久村さんはこう答えます。
「良いアイデアを出す人が目利き、そして、目利きが良いと思ったアイデアが良いアイデアである」と。
話はここで終わらず「でも」と続きます。
「イノベーションは発明や創造とは違う。」
いくら素晴らしい発明や創造性があっても、その智からお金(利益)を生み出すことができるのがイノベーションであり、それは発明や創造よりもレベル感が違う、より高度である、と。(会場 シーン)
ではどうすればイノベーションは実現可能か?
目利きの用件を満たす人材は稀であると久村さんはいいます。
でも、目利きに必要な個々のインデックス(指標・兆候)は難しいものではない、ならば、チームで取り組み、各人が強みとするそれぞれのインデックスの組み合わせで取り組む方が現実的である、と続きます。
久村氏はさらに言います。
「個の力を活かし引っ張るリーダーシップがここで必要になってくる。」
このメッセージは、プログラム終盤にさしかかり、自身の学びや気づき、職場への持ち帰り内容をまとめ真剣に考え始めたメンバーにとって、急に現実味を帯びた自分事の話として届いたようです。
徹底的に技術を研究し、分析と理詰めの実践を重んじてきた久村さんに、参加者の一人が質問しました。
久村さんのモチベーションの源泉は何ですか?と。
久村さんは「楽しいか、楽しくないかだ」と即答しました。
久村さんはこの日の講義の最初にこんなエピソードを紹介してくれました。
大学時代に所属していたヨット部で、幹部から
「(それまで出場すらしたことのない)全日本選手権で優勝する新艇を作れ」
と言われ、ゼロから仕様設計を見直し、コンセプトから風や乗員の特性を考慮した新しいヨットを考案、ビルダーに無理難題を言いつつ、完成したその新艇で見事に初出場・初優勝を成し遂げました。
そのことを「勘違いの始まり」と仰っていましたが、技術を探求する姿勢と好奇心に、CTOとしての彼の原点を見た気がしました。
それはきっと若き久村さんにとって楽しくてしょうがないチャレンジだったのかもしれません。
どんなに優秀な人でも、わくわくしたりアドレナリンが出ている人のエネルギーや勢いにはかなわないような気がします。
そのことは受講メンバーも同様に感じたようです。
この2月の講義のあと、社会活動は大きく制限され、3月に予定されていた最終成果報告会の開催も無期延期になったままです(20年5月現在)。
イノベーションリーダーとして歩み始めたメンバーの皆様との再会を楽しみに、この状況を乗り切りたいと思います。
「R&Dイノベーションリーダー交流フォーラム」
https://school.jma.or.jp/products/detail.php?product_id=100290