Facebook X YouTube

シリコンバレーを活用するには|
【講演レポート】スタンフォード大学 櫛田健児氏 その9

本コラムはスタンフォード大学の櫛田先生に講演いただいた内容を15回にわたり掲載しています。

アルゴリズム革命の衝撃とシリコンバレー:ディスラプションを起こし続ける経済圏 ⑨

スタンフォード大学 アジア太平洋研究所リサーチアソシエート
櫛田健児 氏

シリコンバレーを活用するには

シリコンバレーを活用するにはまず知識が必要です。そもそもシリコンバレーってどこですか?と聞かれますが地図に載っていませんよね。元々のシリコンバレーというのはこういうエリアです。半導体の製造業が集中していたエリアです。

でも今、経済圏としてシリコンバレーを考えると、ベンチャーキャピタル投資によって急成長するスタートアップとそこを買ってくれる共存する大企業の経済圏として考えると余裕でサンフランシスコも入っています。UBERやエアビーやジェネンテックとかドロップボックスもサンフランシスコ拠点です。

家賃も高騰して、現在たった2ベットルームのアパートでも普通に月に4,500ドルぐらいするわけです。どうってことない2ベッドの水回りがちょっと怪しいようなところもそんな値段なのです。普通の人は住めないです。多くの人にとってマイホームは、持とうと思っても持てません。

サンフランシスコ湾を囲むエリアは明らかに橋の数が足りません。1950年代の残念な政治力学で、鉄道はあるのですけれども、電車はなくディーゼル車なのです。運行本数があまり多くないのは、ディーゼルはものすごいコストがかかるからです。
ラッシュ時は15分ぐらいの間隔があって、もっと間隔狭くできないかという議論がありますができないのです。電化されてないため、信号機がマニュアル作動という劣悪なインフラというのが現状です。

地下鉄は走っていますが、元々環状線になる構想が、これも1960年代の残念な政治妥協で半分しか走ってないのです。というわけで、公共交通インフラは明らかに整備されておらず、このあたりは大渋滞になるのです。

このあたりにFacebookの広大なキャンパスが建ってしまったものですから、この辺が恐ろしい渋滞になるのです。ではFacebookの反応速度コンマ01秒速くするのに1日16時間頑張っている人が、普段10分で行けるところ40分かかって車でかかっているのだったら、そんなものは辞めてGoogle行って自動運転の開発をやりますよと本気になるわけですね。

この本気度は相当なものです。子供の送り迎えなど車ではないとなかなか難しいエリアなのです。それこそGoogleのエンジニアも普段5分で行けるところを30分かけて子供の送り迎えをしているのです。これは住んでいる人ではないとなかなか伝わらないのですけど、自動運転に対する本気度はそのような背景も起因しています。大変な社会問題なのです。

シリコンバレーの特徴は、ハイエンドの高所得のリードユーザーが多いのですが、冒頭に申し上げたように潰れる寸前までいった車の会社に、そのわずか6年後に命預けてその会社の技術である自動運転で任せてしまう。そのようなマインドが醸成されているのもこの地ならではです。日本は進んでるところが多いです。例えば新幹線に乗っても、3分ごとに正確に運行されているし、あっという間に金沢まで行けたりします。そのように快適な環境が整っていながら、Amazonエコーや音声認識などの新サービスはあまり浸透していません。

例えばスーパーで何か買う時と買わない時、買わなかった時のデータってどうやって活かすんですか?日本の小さいお店ママパパショップを全国3,500ぐらい束ねている業界があるんですけれども、そこと話をしていたらママパパショップをというのは毎日ヨーグルトとキャットフード買いに来るおばあちゃんや、一握りのヘビーバイヤーの2人か3人で支えられているんですね。それが1人でもいなくなったらあっという間に潰れてしまうのです。購買データはPOS端末を見るとわかるのですけれども、買わなかったものあるいはどういう補完関係があるのかというのはデータに残らないのでわからないのです。

それこそ音声認識の話で、レジのところに小型のものを搭載して「探しものはありませんでしたか?」とか、「何々印のキャットフードがほしいんです」というようなやり取りが認識できたらそこで補完関係がわかって、例えばこのキャットフードは売れているなどということもわかるようになります。

シリコンバレーは高所得エリアで、そういったアイディアをいち早く取り入れるのが好きな地域でもあるのです。エコシステム生態系において、様々なことが補完関係で成り立っています。いろんなタイプの人材が本当に豊富なのです。

例えば小さい会社を多少大きくするのだけをスペシャリストする人とかがいます。アントレプレナーがいつも言われるのは「あなたいいアイディアを持っているけれど、自分よりいいアイディアを自分より頭いい人が自分より努力して先にやっているはずだ」と、そのような現実的なアドバイスをしているのです。「なのでがんばれ」と。

よくないものはあっという間に淘汰されていくわけです。例えばUBERだって先行者ではないのです。サイドカーというものが先行してサービス似たようなアイディアあったのですけれども、カスタマイズするパラメーターが少し多すぎてマニアックだった。その点UBERは非常にシンプルでした。UBERは社内文化が猛烈にアグレッシヴだったこともあり、サイドカーは倒産してしまいました。

UBERはアグレッシヴしすぎたということと、社内文化に問題があったということで、その後CEOが引きずり降ろされましたけども、それも日常茶飯事、よくある話です。このように右肩上がりで成長しているのに、トップのベンチャーキャピタリズムがこういう成長ではここが足りない、これではいけないんだということで「あなたはCEOとしてよくぞ立ち上げてくれた。今までは頑張った。でもこれからプロフェッショナルでいくからクビです」ということを取締役あたりが突然言うわけです。

根回しはあるにはあるのですが、クビになった人は悔しいですよね。ただし数ミリオンもらってクビになるわけですし、ストックオプションを結構持っていたりするので、それを合わせれば高いリターンはあるということになります。成功はしてないけれども、次に本当にやりたかったことにまたリソースをつぎ込んでやるんだ、こういう人が大量にいるわけです。

そういうシナリオではなくても、そのままうまく成功した人も、ここらあたりで交代ということになったら、3社ぐらい何百ミリオンかで、Microsoftやオラクルに自分の会社を売却した人とかがゴロゴロいるわけです。そのような人達はビリオネアに近づいたので南国行ってリラックス、とはならずにこの辺にとどまって、また、頑張るのです。これでようやく生活は気にしなくていいから本当にやりたかったことが妥協なくできるんだ、という感覚です。

このような人達が仲間を集めたりして、リターンをすぐにつくらなきゃいけないという投資家ではなくて、知的刺激を探している投資家として活動していたりするのです。私にはなかなかわからない感覚ですけれども、資金はもういらないと、大体やりたいことはできたと、じゃあ次に求めるものはなんですか?知的刺激ですと、こういうことなのです。

そのような人たちがスタンフォードの、例えばコンピューターサイエンス分野の公開フォーラムで、AIの8つの領域について今研究はどうなっているのか、という公開フォーラムにふらっと現れて、そこで話題になっているような例えばコマツとスカイキャッチは何やっているんですか?という話であったり、ヤマハが自社でバイクに乗るロボットをつくって、自社のバイクにロボットを乗せて自動運転を試みる、というような話を聞きに来るとかあります。

大学を中心として人材クラスターがあり、あがりになった人も次のスタートアップのメンターになったりします。ビジネスインフラ投資家もいますけれども、弁護士とか会計会社も出世払いでストックオプションで支払いしてもらうことが少なくありません。そのような中で彼らも会社をスタートアップをフィルタリングしているのです。

スタートアップは投資家にたどり着くまでの過程で、複数の会計士や弁護士によるスクリーングがかかっているんですね。下手な投資家よりも弁護士のほうが会社の数はすごく多く見ているので、目が肥えているともいえます。このスタートアップはいいということになったら、弁護士事務所を辞めて、その会社に入ったりなど、そういうことも実際あるのです。

非常に重要なものは失敗も貴重な経験として評価する文化がシリコンバレーにはあります。文化というよりはモニタリングとリバリュエーションのメカニズムですね。上手に失敗すると次はいくらでもあるのです。例えば「これやってたんですけれどもGoogleが同じことやりました」「しょうがなかったね」と言い合えるような。

ただしよくない失敗の仕方をするともう次はありません。結構ひどい嘘をついていたとか、あるいは会社経営によくわからない分野が違う親戚のおじさんが入ってきて、例えば副社長が奥さんで離婚騒動が起きてグチャグチャになってしまったというようなケースはアウトです。再起不能です。

私の学生の1人にエンジェル投資家のところにインターンに行ったことがあるのですけど、彼は今ビリオネアになっています。エンジェル投資家を趣味でやっているので、彼に会いたい人のリストがあります。そのなかには似たような学歴と似たようなパラメーターと似たようなアイディアの人がいたんですけれども、1人は2回会社を潰していて、もう1人はこれが初めての起業だという人だとします。ちなみにシリコンバレーの平均アントレプレナーの年齢はだいたい39から41です。

アントレプレナーは若いというイメージがあるかもしれませんが、実際は結構みんなキャリアをどこかで積んでから人脈つくって技術つくって、チャンスを見てバンっと世に出るのですね。エンジェル投資家の人はまずは失敗した人の話しに耳を傾けます。「なんで?失敗しているではないですか」と聞くと「いやいや、彼は2度と犯さない失敗を犯している」「相当な修羅場をいっぱい経験しているからうまくいけば強くなっている」と、いう考え方で話を聞こうとします。そこで上手な失敗の話だったらよくて、上手じゃない失敗だったらそれでおしまいというわけです。

こういうものなのです。スタートアップをつくってどういう人たちが来るかというと、世界中のトップの人の良いところ取りができるんです。

東海岸に比べたら西海岸というのは移民が多いので、トランプ政権を引き起こしたような人種の問題というのはほぼありません。サンタクララ近郊は1965年の人口では95%が白人だったのです。今は白人4割です。ほんの50年でこれだけいろんな人がよそから来て、そうすると逆に摩擦とか起きないのです。こういうところには世界中からいろんな人がやってきています。例えばスタンフォードとかUCバークレーのコンピューターサイエンスのウェブサイトなんか見ると、非常に偉くなっているトップの教授、結構年齢もいっている教授も、インド人だったり中国系の方だったりするのです。

日本の大学の学部長がインド人でしたっていうのは、なかなか考えられないことですが、ここは世界選抜の場でもあり、そのような実力主義の中ではい上がった人達が結構います。

講演時のプレゼン資料は下記よりダウンロード頂けます。
https://event.jma.or.jp/algorithm_revolution

櫛田 健児

櫛田 健児
スタンフォード大学アジア太平洋研究所
Research Scholar

1978年生まれ、東京育ち。父親が日本人で母親がアメリカ人の日米ハーフ。2001年6月にスタンフォード大学経済学部東アジア研究学部卒業(学士)、2003年6月にスタンフォード大学東アジア研究部修士課程修了、2010年8月にカリフォルニア大学バークレー校政治学部博士課程修了。情報産業や政治経済を研究。現在はスタンフォード大学アジア太平洋研究所研究員、「Stanford Silicon Valley – New Japan Project」のプロジェクトリーダーを務める。おもな著書に『シリコンバレー発 アルゴリズム革命の衝撃』(朝日新聞出版)、『バイカルチャーと日本人 英語力プラスαを探る』(中公新書ラクレ)、『インターナショナルスクールの世界(入門改訂版)』(アマゾンキンドル電子書籍)がある。

The following two tabs change content below.

JMA GARAGE

「イノベーション創出のヒント」を提供する場JMA GARAGE
JMA GARAGEお問い合わせ
JMA GARAGE最新情報
ご案内