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テクノロジーの進化がEXに与える恩恵|
シリコンバレー最新動向 その4

コロナ禍で事業の立て直し、採用の見直しを迫られているなかで、人材戦略はどうあるべきなのか。
昨年、シリコンバレーに長期滞在し、「シリコンバレーイノベーションプログラムの受講とともに、HR テックの年次カンファレンスに参加した、日本能率協会の平井亜矢子がシリコンバレーのイノベーションを生み出すエコシステムの動向とカンファレンスをレポートする。

テクノロジーの進化が EX に与える恩恵

それぞれの HR Tech サービスのプレゼンテーションを受けて、彼らが注力しているサービスには、「個々人のデータを分析し、一人ひとりにあった育成支援や業務サポートができる」「従業員のモチベーションをあげるためのオン・オフを併せた手厚い支援」「メンバーの関係性をデータ化しコミュニケーションの質や量を高める」といった特性が多く謳われていた。これらの内容を整理すると、EX 改善には「個別性」「人間関係」「利便性」の3つの点が重要であると考えられる(表2)。

前述のとおり、これまでのテクノロジーでは主に「利便性」という点においてその力を発揮し、業務の効率化を進めることに成功した。一方「個別」や「人間関係」といったものは数の膨大さ、定量化や可視化の難しさといった理由で、テクノロジーの活用範囲が限られるとされていた。そのため「社員一人ひとりの育成」や「関係性の質の向上」のような対応は人事やマネジャーの個々の裁量や能力に委ねるしかなかった。

しかし、ここ数年でテクノロジーや脳科学といったサイエンスの分野が進化したことで、新しいツールが登場し、人事やマネジャーの能力をサポートできるようになった。結果として EX 分野に大きなビジネス機会が生まれ、EX に関する IT サービス、コンサルティングサービスというものが爆発的に増えている。テクノロジーの進化によって、人事・人材開発の分野では、業務の効率化だけでなく、施策の効果を高める非常に強い武器が揃い始めた。

「人の仕事」「テクノロジーの仕事」の棲み分けを

アメリカの人材マネジメントにおけるテクノロジー活用動向と比較すると、日本企業のテクノロジー活用は遅れていると感じざるを得ない。日本企業の人事でテクノロジーの活用が進まない理由はいくつか考えられるが、最も問題なのは人事部門のテクノロジーへの感度の低さである。現在テクノロジーがどのように進化し、何ができるのかを人事担当者が理解していなければ、それをどう効果的に活用するか描くことができない。

アメリカ企業では IT に精通した人材を積極的に人事部で採用、配置し、人材マネジメントや組織マネジメントのテクノロジー活用を進めている。先述したカンファレンスでは、人事部所属のエンジニア、情報アナリストといった方が数多く参加していた。彼らのミッションは「最新テクノロジーの動向を IT のプロの目線で見極め、自社の人材力向上に貢献するための HRTech 活用戦略を描く」ことにある。日本企業の人事部でこのような IT に精通し事部に専門人材の配置が進まないということの裏には、人事戦略にテクノロジーを活用するという視点が抜け落ちている、もしくは優先度が低いという根源的な問題がある。

ポストコロナの人材・組織のあり方を考えたとき、この HR テクノロジーに関する戦略の描き方の差がアメリカ企業と日本企業の競争力の差になるのではないかと危惧している。日本企業の人事部はこのような海外の動向も注視しながら、個々の人材力強化、個々の関係性の質を高めた組織力強化のために、「人事の目と手で行うべき仕事」と「テクノロジーを活用する仕事」の棲み分けを早急に行ってもらいたい。

公開コラムはこちら

その1:コロナウイルスがシリコンバレーにもたらしたもの|シリコンバレー最新動向 その1
その2:ベイエリアの人材マネジメント|シリコンバレー最新動向 その2
その3:HRテック企業が模索する人事課題解決への道|シリコンバレー最新動向 その3
その4:テクノロジーの進化がEXに与える恩恵|シリコンバレー最新動向 その4(本コラム)

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