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#4 グローバル戦略投資(M&A)のベーシックス ー 大団円としてのPMI

今回のテーマは「大団円としてのPMI」です。図表4をご覧ください。

戦略のレイヤーで整理する

戦略にはレイヤーがあります。上位から①ミッション、②方針、③大戦略、④各事業戦略、⑤展開運営(オペレーション)、⑥戦術、⑦テクニックで、それぞれを担う人材が異なります。M&A自体は手段ですから、だいたい③~④の戦略から特定のターゲット業界・候補企業・具体的案件へと議論が始まります。チームが組成され、買収監査をやっていくうち、⑤~⑦へとプロジェクトの重心が降りてきます。財務、人事、ITなどの複雑な専門知識でこなす必要があるので、自然とそうなります。しかしPMIはボトムアップではうまくいきません。それは戦略にリンクさせるため、2つの会社を新しく1つの会社に作りかえる活動であって、企業再生活動に似ていて、最上位レイヤーから設計し直さなければうまくいかないのです。

クロージングも目前となると楽観的空気が支配します。誰もネガティブな発言をしません。なに大丈夫だ、安全だという誤った感覚がチームを支配します。そして買収後に、ばしゃっと冷や水を浴びせられるのです。

状況が進むなかで計画を変化させる(アジャイル)

「精緻な統合計画をたて、緊密にモニタリングすること」が成功の鍵と書いている本があります。これはたぶん彼らのセールストークでしょう。むしろ「計画に従う」より「変化に対応する」ことが近道、というのが実感です。「なあに気の利いた日本人をリエゾンで送れば何とかなるもんですよ」と物知り顔で囁く専門家も同じ匂いがします。しょせん他人事なのです。一方、投資した当事者は穏やかではありません。ほとんどのM&A案件に共通して見られるリアリティは、次のようなものです。

①決定論は通用しない:最善努力を尽くしてPM計画を策定しますが、それはアローアンス(とくにQCDを達成するための実施範囲)含みのものです。そもそもあらゆる情報を完璧に集められません。しかも買収発表は池に投げられた石のように波紋を広げ、岸で返された波とぶつかって複雑な様相を呈します。集めた情報は変化し、時間とリソースも限られています。ゴールを達成するため、ボトルネックを特定し解決する活動なのです。

②企業価値が崩れやすい:被買収会社のマネジャーたちは自分たちの新しい雇用・報酬・レポートラインの不安に怯え、自己保身に走り、その混乱とイライラが伝染すると、組織は麻痺します。競合からのリクルート活動の草刈り場にもなりやすい。情報も不完全で、複雑性が増し、不安定になります。競合環境の変化は、顧客・取引先にも伝搬します。そして複雑になった脆い組織は内向きになり、マーケティングやイノベーション活動がないがしろにされ、トップラインの失速に結びつきやすい。

③リーダーシップに空白が生まれる:新会社として目指す所が明瞭に言語化されないなら、リーダーシップは正しく機能できません。個人的資質(能力と意図)の問題もあります。順風に航行するエクセレント・カンパニーでも問題はあるのに、ましてや買収されたのです。必ず発生する問題をすばやく発見し、解決を講じるのはリーダーシップの役割です。担当者で対処できることはテク二カルなものに限られ、その効果も小さい。

PMIは4つの統合活動

1.ふたつの企業文化を統合する:「会社を成長軌道に変えるM&A」では、最も多くの時間(年月)がここに割かれます。ミッションとポリシー(価値観・行動様式など)を、オーナーのものに添わせるためです。企業倫理などは名詞ではなく動詞として扱われる必要があります(行動に裏打ちされ信賞必罰されるということ)。

2.リーダーシップを統合する:問題解決のみならず、2つの会社が共同して働く方法を作り出すのもリーダーシップの働きです。リーダーたる者の要諦については、クセノポン(ソクラテスの弟子である軍人)の著作を超えるものがないと言われるとおり、2千年以上前の言葉は現代にも通用しますし、胸に響きます。

3.事業システムを統合する:ここについては2つのM&A目的のタイプに従う、ということになります。

4.財務を統合する:コラム2回目でバックミラーに例えましたが、有視界飛行よりも計器飛行の方が安全です。不正会計は論外ですが(先進国のM&A案件では滅多にない)、優れた可視化ソフトもあるので役立つでしょう。

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Masatsugu Shibuno

代表取締役クロスパシフィック・インテリジェンス
岡山市生まれ。事業会社で約20年にわたって戦略投資にかかわり、M&A、PMI、米国事業再生、日米での新規事業開発、グローバル戦略マネジメントなどを担当。元リコー理事、リコーアメリカズホールディングス社長。 2018年2月、株式会社クロスパシフィック・インテリジェンスを日米4名で共同創業、代表取締役に就任。日本の事業会社に「Best-suited Growth」を届ける。 北米市場のグリーンフィールド調査、クロスボーダーM&AとPMIコンサルなどがメイン。 2019年10月に米国事務所を法人化(Cross Pacific Intelligence, Inc.)

(本コラムは教育・情報提供を目的としており、独立した専門的判断に置き換わるものではありません。開示される事実や意見は、読者個人に向けてのものであり、明示的に断りのない限り、クロスパシフィック・インテリジェンス社(当社)、およびサイト運営者である日本能率協会の意見または立場を示すものではありません。当社は、公開情報等に基いて本文章を作成しておりますが、その情報の内容、正確性または完全性について保証または承認せず、責任も負いません。本内容に関し、当社及びサイト運営者の許可なく複製したり転載することを禁じます。)

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