政治経済とシリコンバレー|
【講演レポート】スタンフォード大学 櫛田健児氏 その1
本コラムはスタンフォード大学の櫛田先生に講演いただいた内容を15回にわたり掲載しています。
アルゴリズム革命の衝撃とシリコンバレー:ディスラプションを起こし続ける経済圏 ①
スタンフォード大学 アジア太平洋研究所リサーチアソシエート
櫛田健児 氏
イントロダクション
本日は、自著である「アルゴリズム革命の衝撃とシリコンバレー」の話しを中心に、新しい経済圏についてや企業のワーストプラクティスなどについて触れたいと思います。
僕はシリコンバレーに来て20年近くになりますが、日本企業がこの地に来ている様子をずっと見てきました。
昔は日本企業にとってシリコンバレーの企業は競争相手だったんですけど、時代が変わって、最近ではシリコンバレーのエコシステムに活用しようという動きになってきています。しかしながら、なかなかシリコンバレーを活用するにあたって構造的にうまくいっていない面もあり、そのようなことを避けたうえで活用しましょうという話をしたいと思います。
自己紹介しますと、私は東京育ちで日米ハーフ、父親が日本人で、母親がアメリカ人です。
父親はサラリーマンで、中肉中背、七三分けで黒メガネで紺のスーツ着て歩いて、毎日30年ぐらい通勤ラッシュでギュウギュウな中央線に乗っていました。課長クラスになって、いずれもうちょっと偉くなって、みたいなことを30年ぐらいかけていくのが、日本のビジネスマンの姿なのだというのを見て育ちました。
いっぽう母親はアメリカ人でミネソタ育ちです。
ミネソタというのは冬は氷点下マイナス30度ぐらいになるところですが、そのような田舎で大学終わったら早くその地を離れたいとみんな思うらしいのですが、そのような思いで母親も逃げ出したらもっとも遠い日本に来てしまったというわけです。そのような両親のもとで育ちました。
大学はスタンフォードに行きました。
スタンフォードでは青木昌彦先生のもとで経済学を学びました。90年代後半で、日本の経済ではあまり明るいニュースがなかった時代でした。
ただ、唯一これは面白い、これは明るいニュースだと思っていたのは携帯電話産業でした。98 年にiモードが出て、その翌年ぐらいからJ-PHONEとKDDIが同様のサービスを打ち出しました。
ハードウェアがどんどん進歩して、コンテンツのエコシステムができて、お金を稼ぐことができるプラットフォームに日本がいち早く到達したということに、すごいと感じました。世界中のキャリアが目指していたものを日本が先に実現したわけですから。
しかし、その後携帯電話は、どんどん高機能化していって、当時まだアメリカでは靴ぐらいの大きさの携帯電話を使っている時に、日本ではみんな普通に携帯電話のコンテンツを楽しんでいたわけです。
その時「日本の携帯電話技術は世界をリードしているのだけど、あまりにも高機能化が進んだために、その後のフォロワーが生まれないかもしれない。これはまずい」と思いました。結局、携帯電話分野で気づいたその地位は、2008年ぐらいにシリコンバレー発祥のAppleとGoogleに全部持って行かれたわけです。
その時に自分の研究テーマとして、なぜ日本から、世界をリードするサービスを搭載した携帯電話が生まれたのかという分析をしました。これは経済分析だけではわかることではありません。
ドコモの場合、自社でR&Dリソースを保有していたからプラットフォームがつくれて、メーカーが専用端末に近いものを製造できたのです。これがもしNTTが完全分割されていたらこうはならなかったと思います。
アメリカではAT&Tが完全分割されました。独禁法に抵触ということがその理由だったため、完全地域分割されました。そこからの再統合は叶わず独自のプラットフォームを構築する余力もなかったのです。
NTTが完全分割されなかったのには、政治的な力学も作用しており、このことは経済学の観点から分析しただけではだけではわからないものなのです。
政治経済という見方をしないとわからないことがあります。どんなに優れたテクノロジーも、どのように発展するのか、どう市場に浸透していくのか、するとしたらどんなパターンがあるのか、それは結局、業界の仕組みだったり、業界の仕組みをつくるような規制の枠組みが大きく作用します。
いったい何をベースに競争しているのですか?という視点が不可欠です。政治経済という分野は政治力学から見て、規制は各国違いますし、業界によっても違います。テクノロジーの出現や普及によって、既存のビジネスモデルと新しいビジネスモデルがぶつかりあうことの起こり得るという見方をするのです。
例えばAIと労働も同じです。今アメリカで議論になっているのはこのテーマで、失業率がそもそも高いところにきて、AIを使われだしたらいったいどうなってしまうのかという懸念が浮かび上がってきています。
例えば大規模な実証実験で、例えばトラックの長距離運転手がアメリカには1500万人ぐらいいるのですが、その1500万人の人を全員失業させてしまう可能性のあるAI自動運転の実証実験を実施したらどうなるでしょうか。
日本はどうでしょう?日本は逆ですよね。人が足りなくて困っているといいます。
日本の田舎のインフラはとてもいいのですが、運転手の数が不足しています。休日のましてやゴールデンウィークなどの繁忙期に、運転手さんが回らない、と聞きます。
そここそ自動運転の対象になります、と私は言いたいのです。過疎の田舎であれば子供の飛び出しもあまりありませんし、道路の質がいいとくれば、「それでは日本のこのようなところ(田舎)で実証実験をやってみたらどうですか?」という話しになります。AIの研究者にそのような日本の実情の話をするとものすごくエキサイトします。彼らは国からの予算はカットされるし、大規模な実証実験では雇用問題を脅かす恐れがあります。
日本とは真逆の状況下にあります。
講演時のプレゼン資料は下記よりダウンロード頂けます。
https://event.jma.or.jp/algorithm_revolution
櫛田 健児
スタンフォード大学アジア太平洋研究所
Research Scholar
1978年生まれ、東京育ち。父親が日本人で母親がアメリカ人の日米ハーフ。2001年6月にスタンフォード大学経済学部東アジア研究学部卒業(学士)、2003年6月にスタンフォード大学東アジア研究部修士課程修了、2010年8月にカリフォルニア大学バークレー校政治学部博士課程修了。情報産業や政治経済を研究。現在はスタンフォード大学アジア太平洋研究所研究員、「Stanford Silicon Valley – New Japan Project」のプロジェクトリーダーを務める。おもな著書に『シリコンバレー発 アルゴリズム革命の衝撃』(朝日新聞出版)、『バイカルチャーと日本人 英語力プラスαを探る』(中公新書ラクレ)、『インターナショナルスクールの世界(入門改訂版)』(アマゾンキンドル電子書籍)がある。