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大企業とベンチャーの共存について|
【講演レポート】スタンフォード大学 櫛田健児氏 その10

本コラムはスタンフォード大学の櫛田先生に講演いただいた内容を15回にわたり掲載しています。

アルゴリズム革命の衝撃とシリコンバレー:ディスラプションを起こし続ける経済圏 ⑩

スタンフォード大学 アジア太平洋研究所リサーチアソシエート
櫛田健児 氏

大企業とベンチャーの共存について

非常に重要なポイントとして、大企業群とベンチャー企業群の共存についてお話しします。

ほとんどのスタートアップが立ち行かなくなって、一部の場外ホームラン以外は、M&Aへと流れていきます。誰かが買ってくれないとM&Aは成立しません。GoogleもGoogleMapやGmail、Androidは全部外から買ったサービスです。AppleもiTunesなどは全部外から買ったサービスです。

最近AppleではAIやバーチャルリアリティなどの会社をかなり色々買っています。買い先があるからこそ大企業はどんどん出てスタートアップに入って、そのスタートアップごとまた大企業に買収されて入っていく、この循環というのができています。

私は週末草サッカーやっていますが、そこで知り合った人同志で普通にオフの話として「何やってるの?」「エンジニアです」などと話していて、しばらくして「どうしたんですか?楽しそうですね」と聞くと「飛び出して自分の会社つくりました」と、こういうわけです、彼は40才ぐらいだったのですが、しばらくすると忙しすぎてサッカーに来れなくなって、しばらくしてから、また現れるようになったのです。「どうしたのですか?」と聞いたら「またオラクルの社員に戻りました」と。つまり彼がオラクルを出て立ち上げた会社がオラクルに買収されたのです。

大企業は、皆さんご存知のように新しいことやろうと思うと億単位のお金を使わなくてはいけない。でもやらなくてはいけないことは大体わかっているので、今10億動かせるかどうかという政治的な判断になったりします。スタートアップとして結構目をかけている人が一歩出て「自分でやります」となってその会社から出てビジネスを始めたら、企業にとっては、当初予定の20分の1ぐらいのコストでできるかもしれません。それが残念ながら実現できなかった場合は「さようなら」と、それだけのことなのです。そのようにして「すぐ声かけてね」と、こういう関係でどんどん出ていくのですね。

先ほどのサッカーの人はそのようなパターンだったみたいで、しばらくするとすごく元気そうだったので「やっぱりオラクルいいんですか?」って聞いたら「また飛び出しちゃったんです」と。それでまた忙しくなってまた消えて、今度現れたらテスラ乗っていました。「大型資金調達でもしたのですか?」と聞いたら「いやいやまたまたオラクルに入ってしまったのです」と、この繰り返しです。

「うまくいったら最初に声かけてね」と、こういう丁寧な送り出しがあって、「何?会社を辞める?それは裏切り者だ。2度とこの敷居をまたぐな」みたいな感覚とは真逆です。このようなことは普通の話でよくあります。

40代でスタートアップするのは平均的なので、やった人がよく日本人に言います。「みんなもっとリスクを取るべきだ」「日本人はみんなリスクを取らなさすぎだ」と。「特に大企業の人は」と言っています。でも私それはおかしいと思っています。なぜならアメリカの特にシリコンバレーの大企業では40才ぐらいになった人でエースだった場合、収入が高いのです。40才ぐらいで将来有望とされている、今まで華々しく活躍してきた将来社長候補ぐらいの人の所得はもう桁が違うわけです。ですので、そういう人が会社を出たとしても、それは大したリスクにはならないのです。

でも日本の大企業の40才ぐらいの人が会社を辞めたら、相当なリスクですよね。退職金はなくなるし、家のローンも残っていますし子供の教育費とか色々あり、それも少ない給料水準で。ですので、リスクの度合いが全然違います。シリコンバレーの人の方がリスク取るとよく言われますけれども、そんな単純な話ではないのです。ある意味、収入の面ではリスクは低いかもしれません。うまくいかなかったらまた就職、能力ある人だったら喜んでどこかの大企業もとってくれるし、そうでなくても大きくなったスタートアップでも採用してくれるかもしれません。機会がたくさんあるので、そうたいした問題にならないということなのです。

シリコンバレーの本質は私から見ると、新規企業が新しい技術やビジネスモデルを既存企業に対して破壊的なイノベーションを提供していくことなのです。アメリカの場合は既存企業でうまくいかなかったところはどんどん淘汰されていきます。日本モデルはこれとは違うので、大企業はアジャストする、あるいはゾンビ化するというのがあるかもしれません。シリコンバレーでは淘汰されるような仕組みがあります。

スタートアップは新規企業のVCによって支えられているので急成長しなきゃいけない、スケールしなきゃいけないという使命があります。ジョークで、シリコンバレーのどんな会議でも自分を本来の能力以上に頭良く見せたい場合、これを言えばいいという決め台詞があります。それは誰かが何かを言ったときに、少し考えるようなしぐさをみせ、「でもそれはスケールするの?」と言えばいいと。これを言えばその場のみんなに「この人できる」と思わせることができる、というジョークがあるぐらい急成長をみんな求めています。それぐらいスケールは大切であり、スケールとは人間の活量を増加させる、ということにつながるということなのです。

M&AかIPをしないとVCはリターンがないので、VCというのはリターンが非常に高いブラック企業みたいなものです。みんな寝てないですから。ものすごいプレッシャーのなかで本当に寝ずに仕事しているのが実際です。

スタートアップにもガンガン成長させないとすぐに切るしプレッシャーをかけています。急成長ということで、M&Aのあかつきには大企業が買ってくれますから。スタートアップのエコシステムには大企業も一役買っているのです。

講演時のプレゼン資料は下記よりダウンロード頂けます。
https://event.jma.or.jp/algorithm_revolution

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