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オープンイノベーションについて|
【講演レポート】スタンフォード大学 櫛田健児氏 その11

本コラムはスタンフォード大学の櫛田先生に講演いただいた内容を15回にわたり掲載しています。

アルゴリズム革命の衝撃とシリコンバレー:ディスラプションを起こし続ける経済圏 ⑪

スタンフォード大学 アジア太平洋研究所リサーチアソシエート
櫛田健児 氏

オープンイノベーションについて

シリコンバレーがかくもオープンイノベーションになったかというのには、実は日本の影響もあるのです。

70 年代のアメリカというのはオイルショックのあとに大不況になりました。それ以前のアメリカ企業は現在の日本企業と似ていました。年功序列、終身雇用、社内R&D 関係会社とだけ主な取引がある、このあたりは由緒正しき50 年代60 年代70 年代のアメリカの大企業の典型でした。IBM ウェイとかHP ウェイというのはまさにそれでした。それが70 年代オイルショックのあと、ほぼ同時に日本の製造業がパワーアップしてアメリカに来ました。ジャパンバッシングが起きたのが80 年代のことです。

その状況にうまく適応できなかったアメリカ企業、それまで超優良企業とされていたところがガンガン潰れました。優秀なエンジニアも外に放り出されて背水の陣で家族を養わなくてはいけない、しかたなくアントレプレナーになったという側面もあり、優秀な人材の流出もありIBM も潰れる直前まで来ました。そこにルー・ガスナーという社長が入ってきて、後に彼の書いた本のタイトルをそのままいうと、象も踊れるというわけです。彼はコアの事業をバッサリ売り飛ばして、4 割ぐらい社員数を削減して、大事業転換をしました。

歴史的関係点からみると日本とアメリカ企業では、組織が結構似ていて日本のイノベーションなどが躍進して、アメリカの大不況があって、アメリカ企業の多くは負けました。そこから派生したのがオープンイノベーションです。社内だけでやっていたらよいものがつくれないと。

ハイエンドを狙ってデザインはシリコンバレーでやって、中国でつくらせる、このようなビジネスモデルを一からつくろうとか、ものづくりでは日本に負けるから、ソフトウェアで付加価値をつけようとか、そのあとにきた競争の土俵をプラットフォーム化しようとか、いろいろ試みてきました。

淘汰という点では、日本は負け組になるのを選ぶことを嫌うので、政治社会的に負け組が出ないようになっていて、それは成長と引き換えに社会的敗者がさほど出ないようにという構造に大きくみるとなっています。

それはそれで日本の美しい姿でいいかもしれないですけど、やっぱり環境に適応できないと淘汰されるようなメカニズムを知ってそれに適応することは、シリコンバレー活用の1つの大きなキーポイントじゃないかなと思います。

シリコンバレーの活用すべき本質、パターンはこれです。科学者、技術者ビジネスパーソンの新しい技術やアイディアが世界中からやってきてスタートアップをつくって、スタートアップは大企業に成長するかM&Aされる。

その過程で初期メンバーが放出されます。放出された人達は次のスタートアップを起業したり投資家になったりメンターになったりします。

例えば最近話題イーロン・マスクの例。彼は南アフリカ出身でほぼバックパック一丁でカナダに行って、そこから奨学金で大学に行ってシリコンバレーに来た人です。最初のスタートアップはGoogleMapの非常に初期的なものに近いもので、22ミリオンで、これはこれですごい会社ですけれども、そのほとんどを売却してPaypalになった会社をつくりました。次にはPaypalを1.3ビリオンで売ってそれでテスラモーターとスペースX を起業しました。元々Apple が上場した直後の大富豪になった人達が、Google が上場したあたりで何百人も億万長者になったわけで、そのような人達がずっとこの辺にいるんですね。シリコンバレーはそのようなエリアです。シリコンバレーのロジックとして、様々な人々が世界中からやってきて躊躇なく新しいことをします。新しい取り組みをサポートする仕組みが備わっているのです。

シリコンバレーは何度もやり方を再構築しています。先端の人材、スタンフォードのコンピューターサイエンスの博士課程のプログラムから出ているといって、ちょっと前のプログラミングしかできない人はあっという間に淘汰されるのです。そのような人は、マネジメントに入ったり、もっとスキルの先端やフロンティアに近いところに居続けないともうダメなのです。放り出されるのです。しばらく失職したままですと住むには家賃高すぎるので、もうここには残れないと去っていくのです。

でも、そんなこと知ったことかと世界中からどんどんやってくる。こういう恐ろしいところでもあるのです。でもそれでもやっぱりシリコンバレーを活用しましょうと言いたいです。

講演時のプレゼン資料は下記よりダウンロード頂けます。
https://event.jma.or.jp/algorithm_revolution

櫛田 健児

櫛田 健児
スタンフォード大学アジア太平洋研究所
Research Scholar

1978年生まれ、東京育ち。父親が日本人で母親がアメリカ人の日米ハーフ。2001年6月にスタンフォード大学経済学部東アジア研究学部卒業(学士)、2003年6月にスタンフォード大学東アジア研究部修士課程修了、2010年8月にカリフォルニア大学バークレー校政治学部博士課程修了。情報産業や政治経済を研究。現在はスタンフォード大学アジア太平洋研究所研究員、「Stanford Silicon Valley – New Japan Project」のプロジェクトリーダーを務める。おもな著書に『シリコンバレー発 アルゴリズム革命の衝撃』(朝日新聞出版)、『バイカルチャーと日本人 英語力プラスαを探る』(中公新書ラクレ)、『インターナショナルスクールの世界(入門改訂版)』(アマゾンキンドル電子書籍)がある。

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