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日本企業へのアドバイス|
【講演レポート】スタンフォード大学 櫛田健児氏 その13

本コラムはスタンフォード大学の櫛田先生に講演いただいた内容を15回にわたり掲載しています。

アルゴリズム革命の衝撃とシリコンバレー:ディスラプションを起こし続ける経済圏 ⑬

スタンフォード大学 アジア太平洋研究所リサーチアソシエート
櫛田健児 氏

日本企業へのアドバイス

現在潤沢なキャッシュをいろんな会社が持っています。バブルがはじけたとしても昔みたいにガツッと会社の価値は落ちないとは思います。けれども、どう考えても行き過ぎた株価高騰などは結散見されます。バブル崩壊後は、その泡に投資する危険性が減るので、ちょっと弾けた後ぐらいが投資のタイミングとしてはちょうどいいのかもしれません。1999年や2000年のあとで残ったGoogle、Amazon、Yahoo、eBayなど、現在の雄が名を連ねているという事実もあります。

私が心配しているのはいろんなところがVCにLP投資などをしていますが、大体淘汰されてしまいます。その中でも、1社がドーンと成功して突き抜けて行くことを狙っているものですが、道半ばで損失を計上してしまうこともあります。そうしますと、5、6年でどこかのあまり筋のよくないメディアが「何々会社が10億円を損失。シリコンバレー投資失敗」などと書きたて、その案件に関して責任のない例えば次期社長などが「これはなんだ」ということになってしまうのです。最終的には自分のせいではありません、この件からは手を引きますと、このような力学になった場合、私がいつも思うのは、バブルの真只中に高く会社を買って、叩かれたからと言って安く売ってどうするのですかと言いたいのです。

価格が安くなった時にそれこそ倍のリソースを伴ってシリコンバレーに来るべきだと。今シリコンバレーに来るのだったら、現在の活況が静まった時に撤退を余儀なくされるような政治状況を避ける仕組みをつくってからに来てください、と申しあげたいのです。

ポイントはやはり上層部と中間層の理解の連携ですよ。うまくいく仕組みをつくってもうまくいくとは限りませんが、うまくいかない仕組みで回したらやはり全然うまくいかないですよね。

ですので、ワーストプラクティスの内容が全部自社に当てはまるようであれば、これは事業の継続は難しいと思うのです。仕組みは大事です。それらの難関を突破してきた例がコマツや本田技研だと思います。

ホンダの場合はオープンイノベーションとして、スタートアップと組んでジョイントで技術を開発しています。ホンダも技術供与するし相手からもされる、スタートアップの最初の大きいお客さんがGMとかでも、それはありなのです。共同開発を実質的にやっているので、ホンダが技術を欲しいと思ったらホンダが先に自社へ展開できるのです。

そのような動きの最初の1、2年ぐらいについた差というのは、IT分野ではのちのち雲泥の差になっていく、というのが彼らの読みなのです。ですから、中途半端なコミットメントでことに臨むと、せっかくハードウェアの分野など日本の強みが活かせるチャンスがあるにもかかわらず、途中でキャッシュがなくなって終わってしまうような残念なスタートアップも結構増えてきています。

日本企業はよくわからない理不尽な理由で、契約内容を変えたりなどしませんので、色々チャンスはあると思います。外部からの意見を聞いた場合、シリコンバレーに来る日本企業の強みは何だと思いますか?とよく聞きます。

特に一度シリコンバレーで成功して一度あがりになった人は、今度は知的刺激を求めるので、日本に連れて行ってピッチコンテストとか大企業の幹部に会わせたりしますと、どうも彼らの見る日本企業の強みと、日本企業が考える日本企業の強みがちょっとマッチしていないことがあります。

「わが社ではこんなデータ出せるから」と言うと、「いやそんなデータどうでもいいんだけど。この製品全部、例えば貴社にこのような技術があるのだったら、それを生かしてこういうものができたらすごくいいんだけど」「そういう発想がありましたか」とか、このようなマッチングというのが可能だと思うのです。

自社のアウトサイダーに身を置く人から意見をどのように取り入れるか。自社が思っている強みと他者が見て、ここはスケールアップできると思っているところは意外と違うのかもしれません。

自分の強みだと思っている根拠はなんですか?と見直すことも大事です。

会社の強みを観光資源に例えるとわかりやすいかもしれません。

例えば姫路城は6年ぐらいかけて新しく真っ白になりまして素晴らしく生まれ変わりました。海外の人が姫路城を楽しむポイントは2つあります。1つはもちろん姫路城そのものです。2つ目は、新幹線(のぞみ号)は姫路の駅では停車しないので新幹線がほぼ最高速度で駅構内を通過するのです。YouTubeでものすごく話題になりましたが、人間はあれだけ間近に速度がすごいもの見るように出来てないので、「おお、きたきた」ってなってドンドンピューって通り過ぎるのを、外国人がうわーってびっくりして大喜びしています。彼らは通過を体験したいのです。

そうなりますと、観光客にとっては、のぞみがいつ通過するのかという情報がほしいわけです。姫路の観光協会やJR西日本では、そこに人気が集まるとは全く思っていないわけですね。アウトサイダーで実はこういうところが評価されるのです。うちが一押しのところと人が一押しするのでは、違うケースもあるということなのです。

講演時のプレゼン資料は下記よりダウンロード頂けます。
https://event.jma.or.jp/algorithm_revolution

櫛田 健児

櫛田 健児
スタンフォード大学アジア太平洋研究所
Research Scholar

1978年生まれ、東京育ち。父親が日本人で母親がアメリカ人の日米ハーフ。2001年6月にスタンフォード大学経済学部東アジア研究学部卒業(学士)、2003年6月にスタンフォード大学東アジア研究部修士課程修了、2010年8月にカリフォルニア大学バークレー校政治学部博士課程修了。情報産業や政治経済を研究。現在はスタンフォード大学アジア太平洋研究所研究員、「Stanford Silicon Valley – New Japan Project」のプロジェクトリーダーを務める。おもな著書に『シリコンバレー発 アルゴリズム革命の衝撃』(朝日新聞出版)、『バイカルチャーと日本人 英語力プラスαを探る』(中公新書ラクレ)、『インターナショナルスクールの世界(入門改訂版)』(アマゾンキンドル電子書籍)がある。

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