シリコンバレーを活用するポイント|
【講演レポート】スタンフォード大学 櫛田健児氏 その12
本コラムはスタンフォード大学の櫛田先生に講演いただいた内容を15回にわたり掲載しています。
アルゴリズム革命の衝撃とシリコンバレー:ディスラプションを起こし続ける経済圏 ⑫
スタンフォード大学 アジア太平洋研究所リサーチアソシエート
櫛田健児 氏
シリコンバレーを活用するポイント
シリコンバレーを活用するために避けた方がいいことを話します。
まず、とりあえず事業所を開設して駐在員を送り込むというケースです。とりあえずという点がポイントです。
ふわっとした情報集めや戦略パートナー探しをミッションとするのは問題です。
シリコンバレーにおいては日本企業が売り込む側であるということを理解しないといけません。日本では大企業なのでサプライヤーみたいな小さい企業というのはいっぱい呼べば来てくれます。あるいはわざわざ会いに行きますなどと言おうものなら、当然のようにトップが会ってくれます。しかし駐在所をつくってシリコンバレーに来たら、「なんか面白いものを探してこい」と言われたけど「すいません、誰も会ってくれません」と、こうなります。会いたい企業ほど自分に会ってくれる時間がなく、少数精鋭で激しい競争のなかでやっているので会えないのですね。
最近FinTechとかで被害にあっているという話を聞きました。その会社は真面目に70社ぐらい日本企業とミーティングを4ヶ月でやって、そのあと3ヶ月何も起こらなかったと。「何が起きているんですか?」って日本企業が相談に来たと思ったら、彼の仕事は調査して情報を集めて本社に送る真面目な調査部だったのですが、それでは、スタートアップにとって何の見返りもないことなのです。
これは非常にみんなにとってまずいことです。シリコンバレーに関心があるのはとてもいいことなのですけれども、上手にやらないと逆に橋を燃やしてしまうことになるのでこれはまずいということになるわけです。
シリコンバレーのロジックはこんなに違いますと日本には報告しながら、シリコンバレーではわが社ではこういうことをやっていてポテンシャルがありますということを発信していかなくてはいけない。違う方向にはそれに見合った違う内容を発信しなくてはいけません。板挟みになるということです、
スタートアップに言わせれば、スタートアップの人は、大体ピッチコンテストとかVCのピッチに慣れているので、人生かけた全身全霊で考え尽くしたものを4分で説明することができるわけです。ポイントはなんですか? 課題はなんですか?それをどういうふうに解決するのですか?その解決法を我々は発明しました、とこう来るわけです。
さらに、どれだけ難しいことを克服したのか、それとも我々が最初に考えついてから早く動くのか、どうして我々にしかできないのか、これを4分でガーッと言う練習をたくさんやって、修羅場も色々くぐって来た人達を前に、1時間のアポイントメントを前提においた資料を出して読み上げるような、日本では普通のやり方をしてしまうわけです。それが悪いとは言ってないです、ただ文化が違うのです。「これを読み上げますので」と言った瞬間「いやもういいです」という風になってしまうのです。
売り込みとは、我々はこういうものができる、こういうことがある、あなたのこういう問題意識ともしかしてマッチしているんじゃない?何かやろうよということです。こういう売り込み方で、たとえそれがうまくできても、今度は決済権のリソースがシリコンバレーになければ、スタートアップと具体的な商談を進めることができません。
「これは面白そうです、素晴らしい。じゃあちょっと持ち帰ります」と日本企業の駐在員が答えたとして、スタートアップ側は2週間ぐらいで返事がほしいところを「すいません、これ役員会にかけないといけないので4ヶ月ぐらい待っていただけますか?」「いや無理です」ということになってしまうのです。そうすると今度は本社が「待ってもらえ」「待ってくれない」「なんで待ってくれないんだ」とここでも板挟みです。
そうするとだんだん肩身が狭くなってくるので、この人は仕事してないんじゃないかと、ということで肩身が狭くなって、さらに本社のほうにどんどん目が行って、そうすると上層部の人が「よくわからないから俺が行く」となる。そうやってシリコンバレーに来るのですけれども、悪いパターンだと各部署の人が連携しないまま大勢で来てしまうのですね。そうするとシリコンバレーの駐在所が旅行代理店になってしまうのです。いろんな表敬訪問をする「面白いスタートアップを見せろ」ツアーになってしまうわけです。
「そう言われてもBiz Devがないとアポが取れません」「私は本部長だ」となり、そうなるともうみんな困ってしまうわけです。
さらに問題として、本社には未来を先取りしすぎた情報にピンとこないというケースがあります。
例えばブロックチェーンといって、インターネット上に2008年に出たデータで、ビットコインの構想のなかにも組み込まれているブロックチェーンという仕組みがあるのですが、この仕組みがすごいというのは2009年2010年ぐらいにシリコンバレーでよく言われていたのです。でも、2010年にブロックチェーンすごいんですと本社に報告しての全く刺さらない。今だったらいくらでも刺さりますけれども、ディールで1番美味しいところはその時点で大体すでに終わっているわけです。
私が聞いて1番悲惨なケースは、日経新聞で出たいろんなものを集めてそれを本社に送ることです。送っている本人は先端のことを知っているにも関わらず、です。この人はあえて周回遅れの情報を、先端の情報が刺さらないという理由で、本社に送っているのです。
これは悲しいことです。君は何をやっているの?そもそも私は何をやるべきなの?というのがわからなくなって双方とも糸が切れた凧のようになってしまうのです。最近はさすがにこのような事態は減りました。でも昔はこういう問題もあったのです。
ちょっとした先入観でシリコンバレー若い人を送り込めということもよく見受けられます。若いだけでは、経験が十分でなく、技術もあんまりないし、ビジネスのなかでは本社とあまりパイプが強くないような人も来てしまうということもよくあります。これももちろんうまくいかないですね。
また日本の場合はだいたい3年任期で交代になるので長期的な仕事ができません。日本企業の強みの1つは四半期ごとにクビ切られるというプレッシャーにさらされているわけではないので、長期タイムスパンで物事を見ることができるはずなのですけれども、それを駐在員が活かせないでいます。
1年目に生活立ち上げて2年目はガンガン仕事できます。ただ3年目になってくると終わりが見えてきているので長期的な仕事ができなくなります。立食パーティーで「どれぐらいこちらにいるのですか?」とさり気なく聞くと「2年半ぐらいです」。「ではどれぐらいまでこちらにいるのですか?」と聞くと「実はこの4月まで」と。会話はそこで「じゃあ失礼します」となってしまいます。
さらに、次に来る人はゼロベースでシリコンバレーに来て、場合によっては引き継ぎが2週間とかしかないケースもあるので、ひどい場合には間が空いちゃうのですね。もっとひどい場合は、間が空いてから後任の人が前任を知らないというケースもあります。前任が何をやっていたかよくわからないのです。日本の企業の強みであるはずの連携がなぜか駐在員になると活かせてない、これは問題です。また人材の質という面では、本当は本社にいなくては困るような優秀な人が駐在したほうがいいのではと思います。
講演時のプレゼン資料は下記よりダウンロード頂けます。
https://event.jma.or.jp/algorithm_revolution
櫛田 健児
スタンフォード大学アジア太平洋研究所
Research Scholar
1978年生まれ、東京育ち。父親が日本人で母親がアメリカ人の日米ハーフ。2001年6月にスタンフォード大学経済学部東アジア研究学部卒業(学士)、2003年6月にスタンフォード大学東アジア研究部修士課程修了、2010年8月にカリフォルニア大学バークレー校政治学部博士課程修了。情報産業や政治経済を研究。現在はスタンフォード大学アジア太平洋研究所研究員、「Stanford Silicon Valley – New Japan Project」のプロジェクトリーダーを務める。おもな著書に『シリコンバレー発 アルゴリズム革命の衝撃』(朝日新聞出版)、『バイカルチャーと日本人 英語力プラスαを探る』(中公新書ラクレ)、『インターナショナルスクールの世界(入門改訂版)』(アマゾンキンドル電子書籍)がある。